衝撃
通信局への道のりは多分険しかった。
這って、隠れて、走る。
時々は私の目も役に立ったけれど、補給なんてないから、出来るだけ弾薬は節約する。
既に街のそこここで銃声や爆発音が絶えず聞こえていた。
ジャンの背を追って駆けていた時、突然近くで何かが爆発した。
「くそ……っ!」
瓦礫が降り注ぐなかで、ジャンが毒づくのが聞こえた。
ヘルメットに強い衝撃があって、一瞬意識が遠のいた。
「うっ!!」
倒れ込んだ地面で、顎と頬を多分擦りむいた。その衝撃で目が覚める。
一瞬「視界」が狭まった。
手を繋いでいたせいで巻き添えに転ばせてしまったイワンが、よじ登るように私の上に覆い被さって、息を詰めた。
もの凄く長い時間が経ったような気がするけれど、多分実際はほんの一瞬の出来事。
「……グレーテ、イワン、生きてる!?」
押し殺したジャンの声が聞こえた。
「ジャ、ン、……ここ」
口の中に砂埃が張り付いて声が出し辛い。
手を動かして周りの状態を確認していると、イワンが起き上がって引き起こしてくれた。
イワンの身体が微かに熱を持っているのがわかった。
もしかしたら、私を庇って怪我をしたのかもしれない。
「……ありがとう。」
私の声は、今のイワンには聞こえない。
字を書くことも出来ないから、その手を強く握り返した。
「馬鹿。グレーテ、痛ぇよ。」
「2人とも無事で良かった…!」
「……ジャン、今の、何だったの?地雷?」
「いや、多分迫撃砲だ。……僕ら相手にそこまでするなんてね。」
「私たちが4組だって向こうは知らないから。」
ただの工作兵だと思われているのだろう。
敵だってまさか、ただの子ども以下の存在が戦場にいるとは思っていないだろう。
「すぐ次が来る。でも、……また少し、休める所を探そうか。」
ジャンは私とイワンに顔を向けて、顎を引くように言った。
ジャンの指示で逃げ込んだ建物の中で束の間の休息を取ることができた。
ヘルメットにはヒビが入っていたけれど、代えもないのでそのまま被っているしかない。
ジャンによると、イワンは打撲と切り傷で済んだらしい。
2人がお互いの傷を手当てしている間に、残された物資を探してみる事にした。
今まで守られてばかりだったから、私も何か役に立ちたかった。
舌を鳴らしながら壁を伝っていると、何かに躓いた。
「ひっ……!」
倒れ込んだ先のそれは、柔らかかった。
熱のない体。
私と同じ軍服を着ているのがわかった。
ザラザラと乾いた泥にまみれて、嗅いだことのある金臭い臭いがした。
手で探った先に、たわんだ細長い板。
長い三つ編み。
特別製の半ズボン。
「グレーテ、大丈………!?」
悲鳴を聞いて、足音共に私に呼びかけたジャンが言葉を失った。
「……ララ。」
「違う。」
小さなイワンの声を否定した。
だって、ララの身体は、いつも人より少し熱を持っていて、ふんわり宙に浮いていて。
柔らかくて、消毒液とお菓子の混ざったような匂いがして。
こんな、床に落ちた、見えないモノじゃ、なかった。
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