作戦会議
「ジャン、怪我してるじゃないか……!」
大きな声で言って、イワンが慌てて立ち上がった。
「大丈夫だよ。痛くないようにできるんだ。」
口元に人差し指を立てたジャンの返答はどこかズレている。
「ジャン、イワンは今、耳が……」
よっこいしょ、と私達のすぐ近くに座り込んだジャンに伝えると、1つ頷いた。
「うん。ごめん、僕のせいだ。」
カリカリと地面を引っ掻く音がする。イワンと話しているのだろう。
「ねぇ、怪我は大丈夫なの?」
「大丈夫。ほんの少しだよ。」
「さっきの爆発は、手榴弾?どうやって逃げたの?」
「それは、またあとで教えるよ。」
いつの間にか、私の手の震えは止まっていた。
全身に染み付いた泥が今更不快に感じる。
「ここからの事を考えよう。グレーテ二士。」
「はいっ!」
思わず背筋を伸ばした。
階級が呼ばれた時、彼はクラスメイトではなく上官だ。
「今回の任務の目的は。」
「当該の市街地を占拠し、味方主力部隊の動線を確保する事であります。」
「3人で可能だと思う?」
「はっ。……困難を極めると思われます。」
「そうだ。」
そこまで言って、ジャンはうーん、と唸った。
「……グレーテ、僕が悪かった。やっぱり君は普通にしてて。」
「……別に、良いのに。」
「僕こういうの向いてないんだよ。」
たまたま組んだチームだったが、今や名実ともに私達のリーダーはジャンだ。
「僕たちの他にも、何人か街に入るのを見たから、皆なと合流したい。」
「うん。」
また、地面を掻く音がして、イワンが頷く。
もしイワンの耳が聞こえていたら、皆なの事も何か分かったかも知れないけれど、生憎私は普通の聴力しか持っていなかった。
「皆な目的は同じだから、主要施設を目指す筈だ。」
役所、通信局、病院、配水局、変電所。
学舎で頭に叩き込まれた国中の地図を思い浮かべる。
私たちが入った通用口から、1番近いのは配水局。
指で覚えた施設の場所はなんとかまだ頭に入っていたが、詳細な現在地がわからない。
「通信局を目指そう。」
「配水局じゃないの?」
「配水局は通信局への通り道だから。途中で皆なと合流できるかも知れないし、ポンプと事務所しかないから取っても拠点にし辛い。水も止まってる筈だ。」
「分かった。」
ここはまず友軍に接収されて、次に敵に奪われた街で、住民は残っていない。
敵に占領された街への水と電気の供給は、当然首都の本局から止められる。
「グレーテ、もう立てる?……ごめん、汚れてるけど。」
差し出されて握ったジャンの手袋は泥と多分血で湿っていて、ゴワゴワした。
イワンを振り向くと、彼ももう立っていて、深く頷く。
今まで身を隠していた瓦礫を乗り越えて、ジャンが1つ前方に手を振った。
出発だ。
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