突入

 街に近づく程、見つかるリスクは高くなる。

 銃声が響いたのは、私達のチームがもう少しで着くから、と声を交わした直後だった。

 

 誰か見つかったのか、いたずらに撃ったのか。

 何もわからない。

 悲鳴は聞こえなかった。

 誰も当たっていないのか、声も上げられなかったのか。

 

「まずい……!」

 

 わからないまま、ただ手を引かれて泥濘ぬかるみを走った。

 とりあえずの目標は街を取り囲む壁にある小さな通用口。

 いつの間にか、足元に石が敷かれている。壁の外周にたどり着いていた。

 

「ジャン、人が集まって来てる。待ち伏せされる……!」

 

 耳を澄ませたイワンが告げる。

 既に苦しそうな声音だった。

 もう少し騒ぎが大きくなれば、頭を抱えて身動きが取れなくなるに違いない。

 

「僕が先行して制圧するから…、」

 

 その時、ジャンとイワンしか存在しない、冷たく閉ざされた視界に、何かが強烈にきらめいた。

 引かれていた手を掴み返して、思い切り後ろに跳んだ。

 

「うわ!」

 

 再び泥の中に尻餅をついた私達の目の前に輝く火柱が上がった。

 

「うげ!」

 

 跳ねた炎の欠片をイワンが慌てて払い落とす。

 壁の上から火炎瓶が投げ落とされた。

 さっきの銃声は威嚇じゃない、完全に見つかっている。

 

「立て!走れ!」

 

 ジャンが跳ね起きて叫んだ。

 銃声が追いかけてくる。

 足元で跳ねた弾が背嚢をかすめた。

 まだ弾幕というほど多くはないけれど、止まったらきっと当たる。

 火炎瓶が次々と落ちて来て、熱に照らされた壁と石畳が微かに浮かび上がって見えた。

 

「あそこだ。」

 

 ジャンの声が向いた方に、いくつか人影が見えた。

 あそこがきっと街に入る為の通用口だ。


「イワン、早く……!」

 

 イワンの足が鈍っている。音を選べないイワンは戦場の音に耐えられないのだ。

 私は今までとは反対に、イワンの腕を引いた。

 

「そのまま走り抜けろ!」

 

 ジャンがまた叫んで人影の中心に躍り込んで行く。

 彼が振った腕の先で、体温と同じ熱が吹き出して飛び散るのが見えた。

 

 私の前にもうジャンの背は無くて、ただ人影を避けて、熱を持った銃口を避けて走る。

 絶え間ない音と叫びの中で右手の先のイワンは重かった。けれど時々私の腕を引き返して方向を修正する。

 

 ──止まったら死ぬ。

 

 その思いだけが私達の足を動かしていた。

 

「止せ!ジャン……!!」

 

 不意にイワンが叫んだ。

 思わず振り返った時、熱が炸裂した。

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