第37話 ヴェパル
プロテウスは北には広い森が広がり、東から南東には大きな川が流れている城塞都市らしい。すなわちまともに攻めるには西側からしかないが、もちろん城塞都市だからもっとも守備が固いのもそっちだな。
まあ誰しも堅固であっても攻められたくないだろうから、近くに敵がくればうってでてくるはず。それで誘い出して中身をできるだけ少なくすることは出来るだろうが、それだけで落とせるとも思えない。
我の軍勢は【可能性】を生み出すものでもあるから、あんまり減らしたくないんだがな。一切減らさぬなど闘争であるから不可能であるとは分かっておるものの、我自身の強さという担保がなくなっておる以上、どうしても慎重にならざるをえない。
収入は増えておるが、同時に支出も増えておるから控えておったが、新たなゴーティアを召喚するべきだろう。こちらの駒が足りていなさすぎる。
呼び出すのはヴェパルだ。ゴモリーと同じく、数少ない女性系のゴーティアである。彼女の個性であれば今の状況を打破できるのではないか、とも考えたのだ。
皆が寝静まった深夜、モリーだけを連れて、少しだけ本隊から離れ、結界をはってもらってヴェパルを召喚した。
「わたしはヴェパル。魔王の召喚に応じるわ」
現れたのは絶世の美女と言っていい、ただし下半身が魚の人魚だ。
「よく来てくれた。ヴェパル。その姿では不便であろう。まずは人の姿となってくれ」
絶世の美女のまま、人の姿となる。全身を隠せるほど長かった髪は少し短くなったか? それでも膝辺りまで伸びておる。
「よし、そなたは今後パルと名乗るがいい。こやつがモリーであるようにな。ちなみに我はアルデリウスでアリスだ」
「可愛らしい魔王様。ゴモリーとわたしが揃うとか経験がありませんわ。よろしくお願いします」
「聞こえておるぞ、パル。我らは近々ある城塞都市を攻撃する予定だ。そこでパルに役立ってもらいたい」
「わたしの力がふるえる場所であるなら、なんなりと」
「うむ、呼ばれたばかりのお主には【可能性】を備蓄できておらぬだろうし、それなりの分を分け与える故、やることはやってもらう」
我が軍勢はプロテウスを射程に収めたが、いろいろと準備をせねばならぬので、不意の敵出撃で混乱しない程度は距離を離して陣をひいた。
そこからマリウスとヴェパルを外して、ヘオヅォルとニコラのいるテイム別働隊に合流させた。さらにその別働隊はプロテウスに隣接して流れている川の上流に移動させた。
丸一日、プロテウス西側でガラテアで合流した鉱夫たちや懲罰部隊に、挑発行動を行わせ、時間を稼いだ。
いくら挑発しても一切反応がない。よほど訓練されておるのか、ろくな将がいないのか? 第一や第四がおるはずなのだから将がいないはずはないんだがな。
このまま籠城させておいてもいつか干上がらせることも出来そうではあるが、川の上流から物資を乗せた船が入っているとの報告も受けておるし、おそらく北の森からも物資を入れておると思う。
それに今までのブヴァード領主エドモンドの評判を聞く限り、プロテウス町民の半分が餓死しようともあやつは気にしないのでは?と思うので、兵糧攻めは愚策であろう。
まあ船は阻止するがな。川の上流に位置した別働隊は川を降ってくる船を、水面では筏を作ったゴブリン、水中からはヴェパルの眷属であるサハギンとレイクウィッチ、空からはグリフォンで攻め立て、物資を奪い取る。
そうした略奪を行いつつ、拿捕した船の船員にヴェパルの疫病を仕込んだ上でプロテウスに逃した。彼らはプロテウスでさらに疫病を撒き散らしてくれるだろう。
ヴェパルの疫病はえぐいものでトラウマになるだろうが、丸二日経つとすっかり跡形もなく治癒するものだ。三日放置すると死ぬらしいので、それは戦後困るから、二日で収まるようにするように言った。そういう調整が出来ることは事前に知っておったからな。
一日も経たぬうちにプロテウスは大混乱に陥った。プロテウスへ逃げた船員の体に急に傷口が開き、そこに蛆が湧くのだからな。そしてそれは蛆が湧いた人間の近くにいただけで移るのだから混乱するに決まっておる。
混乱はあっという間にプロテウス全土を覆い尽くす。そこまで感染力は強くはないはずなのだが、なんか異様に広まっておるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます