第18話 復活

「はいるぞ」



村の中央から少し離れた家に入る。入るなり、泣き声が聞こえてくる。泣いておるのは母親か?



「あなたは先程の……。村長から聞きました。あなたがたのおかげでこの子は帰ってこれたのだと」



父親らしき者がしっかりとした声でそう言ってきた。

我のおかげ?

分からんが村長がそういうことにしたのだろう、むしろ都合が良いな。



「愛されていたのだな。今なら復活できると思うがいかがするか? お前たちの【可能性】は減るが」

淡々という。



「復活?! あなた、様は高名な冒険者でいらっしゃるのですか? 復活など王都にいるような魔法使いか高名な冒険者でなければ使えぬと聞いております」



「この子が戻ってくるのでしたら、私の【可能性】などいくらでも。お願いします。魔法使い様」



父親と話しておったのだが母親が文字通り飛びついてきた。

父親もその場で土下座のように頭を下げてきた。



「我らがどうなろうと、あの子の命が戻ってくるなら、喜んで。お願い致します」



ふむ、これが人間の親子というものだな。

聞いてはおったが、本当にそうなのだな。我ら魔属にこのようなものはないからのう。



「王都で復活を頼もうものなら、村全部を収めても足りるかどうかですが、本当によろしいのでしょうか?」



村長やついてきたハノンまで心配してきおった。

金などそれほどいらんし、この家族や村なら復活は確実に成功するであろうことは予想がついたので大きく出れるわ。



「心配するな。そのような要求はせんよ。復活するなら早い方がいい、バーモンとやらはどこだ? それとハノン、回復薬を準備しておけ。我は復活はできてもその直後の回復までは出来ぬからな」



直後でなくても出来ないのだが、それは言わなくてもいいだろう。



「大きな傷はすでに縫っております、もし問題があるなら回復薬は買わせていただきます」



父親がそう言ってくれた。ハノンを動かすのに手っ取り早くて助かる。



我の復活はおそらく人間が使う復活とは違うはず。


我の復活は【可能性】を集めて別の、ありうるはずだった可能性を無理やり引っ張ってくるものだからだ。

すなわち生きていたはずの可能性を事後に引っ張ってくるのだ。


故に死んだと知っているものが少ない方がいいし、死んだと思いたくないものが知ったのであれば可能性を操るのは難しくはない。


だが消費はするだろう。


死んだことで果たせなかった可能性がどれほどあったか、によるが、まあ足りなければ親からひっぱってくればいいだろう。

了承しているしな。

さすがにこれは同意がないと出来ないのでな。


まあ理屈はどうでもいい。



「では我とバーモンだけにしてくれ。ハノンは儀式が終わり次第我をひきとってくれ。もしかすると消耗しきっているかもしれぬ」



バーモンが安置されている部屋に一人残る。


誰からも観測されないほうがいいのも事実であるが、魔王たる我でも大仕事であるのも間違いないので、額を晒さなくてはならない。



我は額の魔石を晒し、死体のバーモンとその両親との因縁の糸を強くしていく。

そして我からも因縁の糸を伸ばし、それが致命傷となった心臓に絡める。



我は【希望】の魔王。運命を操ることなど容易い。



この因縁の糸はそう簡単には切れぬし、魅了に近い効果を与える。


すなわち人間程度が我の復活を受けたなら、そやつはもう我のいいなりということよ。


本人はそうだと気づかぬレベルでな。

そして因縁の糸は両親へも、そして村長へも伸びていく。


この村の眷属化はより確実になるだろう。

ちゃんと対価はいただいている、ということだな。


この我が一時的にとはいえ、弱るのだからそれに見合ったものもいただかんとな。



一瞬、遺体が安置されていた部屋に魔力が満たされた。それはすぐに霧散したから常人では分からぬだろうが、分かる者なら、ここで奇跡が行われたのだと気づくことだろう。



すぐに前髪を下ろし額の魔石を隠す。


魔石のカバーを作らぬと不便じゃのう。


復活はなったはずだが、思いの外疲れたのう……、声すら出せぬわ。


ハノンにあとのことを任せておいたが大丈夫だろうか。


いかん……眠い……、本当に、脆弱な、体じゃ、のう……。

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