第19話 生きる道
気づくと我は宿屋の一室で寝ておった。
我が目覚めたことにすぐに気づいたのは近くにおったモリーであった。
『アリス様、わたくしがお側から離れているうちになんという無茶を。さすがに心配しましたよ』
『すまんな、急ぎじゃったし。もしあのモヒカン共が居た野営地にすぐにあの騎士どもが戻ってきたら村の者共だけでは相手にならんだろうからな』
『我ら魔属が純粋な復活を使えるとは思いませんでした。さすがは魔王様、ということですか?』
『そうだな、我の属性にも関係しているが我が魔王だからで間違ってはおらんな。この脆弱な体になってしまったから昏睡までしてしまったが』
コボルドの集落で一人の時に復活など使わないでよかったと思うわ。
「アリス様がお目覚めになられたわ、皆入っていいですよ」
「おお、アリス様ご心配しましたぞ」
『せっかくこの世界でも受肉できたのに、すぐに送還されることになるのかと思いましたぞ、魔王アルデリウス様』
真っ先に入ってきたのはマルコキアスか。
「マルコよ、さっそくいらぬ気をつかわせてすまんな」
「滅相もございません」
マルコめは優雅に我の前で跪きおったわ。
『俺はアリス様の騎士と思われているようなので、その方向でいこうと存じます』
『はっは! マルコが騎士?! 似合わぬが良かろう、その方向に合わせよう』
モリーが魅了したこの村出身の戦士であるアロンとサムソンも、ハノンとともに入ってきた。
「ありがとうございます。バーモンを助けてくださったと聞きました。村に居た時俺たちの弟分のようなやつだったのです。アリス様には感謝しかありません」
「村長もアリス様を褒めていました。ただこの村はあいつらを叩き潰したことで確実に隣領ブヴァードに敵対したことになります。そのへんはいかがするか迷っておられるようです。どうか話を聞いてもらっていただけないでしょうか?」
ハノンは心配そうにこちらを見ただけだった。ハノンは分かっておるからな、我がどう動くかを。
「案ずるな、アロンよ。すぐにでも村長と話をしよう、我らにも村にも良い方向に動くことを約束するぞ。さっそくだが村長を呼んでくれまいか?」
すぐに村長との会談の場は作られた。我とモリー、マルコに対して、村長はバーモンと村に入った時に出会った村民のルデンを連れてきた。彼は副村長らしい。部屋の空気が重く、木の床がきしむ音が響く中、ワジャの息遣いがわずかに乱れる。
「さて、ワジャよ。なにやら心配しておるらしいな」
「当然でございます。我らはブヴァードに敵対しました。あのモヒカンどもの言うことが本当であるなら次は即座に攻めてくるのではないでしょうか。いかがなされるおつもりですか?」
村長ワジャ自身はそれほど心配しているようには見えないが、村民の手前なのだろう。
「むろんそいつらも我が叩き潰す。ある程度叩いたら逆にこちらが出向いてやるつもりだ。その間に領主に助けを求めるといい。今ならもう妨害はないはずだ。なんならアロンやサムソンを向かわせてもいい」
「バーモン並のものはもうおりませんでしたので、出来ましたらそうさせてください。しかし叩き潰す、のですか。アリス様は底知れぬお方のようで。実際あいつらを一蹴されましたし復活まで使っていただいたので信じております、なあルデン」
「わしゃあ見てないので何も言えん。が村長が嘘をついてもしゃあないし、起こった事態を考えればそうであってほしいとも思う。のでアリス様、モリー様、それに……?」
「マルコだ。アリス様に従う騎士だ」
「騎士様でしたか。アリス様がどこかの王族であるという噂も流れておりましたが、そうであってほしいです。……今わしらはこういった希望にだけにすがっておる次第です」
よいぞ、属性による加点が我に流れ込み続けておる。我は村の希望、村は我のお膝元だ。
「心配しなくてもいいぞ。我が守ると決めたのだ。村の皆は安心して今までと同じ生活をしておるといい。しばらくはな。いずれ何者かがやってくるだろう。その時に村の未来は決まる。我が思い描いた未来だがな。だから作物を育てよ。獣を狩れ。それがお前たちの生きる道なのだろう?」
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