第16話 マルコキアス
「お前たち、なぶったのだろう? ならなぶられても仕方ないなぁ」
やったらやり返される、当然のことよなぁ。
だから我も絶滅させようとはしなかったし、火も使わなかった。
個人をブレスで焼くことはしたが、街に火をつけたりはしなかった。
でなければ我が配下どもがいる場所に火をつけられるからな。
我が配下には火をつけるのが得意なものはおっても火を消すのは得意ではなかったし。
魔王城が放火されて落ちるとかは、無様極まりないからな。それに火は【可能性】を残らず消してしまう……。
ここらにいたモヒカン共はあらかた麻痺させた。モヒカンの体がピクピク震え、目だけが恐怖に歪む。
モヒカンリーダーとその取り巻きは逃したようだが、別に我に恨みはないから放置だ。それよりもオーガが迫ってきておる。
『アリス様、オーガがそちらに』
『分かっておるわい、任せておけ』
モリーは〈パラライズストーム〉から範囲外に逃れたモヒカンどもを追って、駱駝の上からどこから出したのか一本鞭で逃げるモヒカンを殴っておる。その鞭にも麻痺効果がついておるようで、だいたい一撃でモヒカンはひれ伏しておるの。鞭の音がパシッと響き、モヒカンの悲鳴が辺りに木霊する。
オーガはまず威嚇してきおった。
この見た目で侮られたか、それともモヒカンどもを蹴散らしたので警戒されたか?
まあどちらでも良い。
この我を脅そうというのか。
笑わせおるわ。
ふむ、ならば。
「〈フィアー〉」
おたけびで威嚇してきたオーガに魔法をかけてやる。
オーガごときが我の魔法から逃れることは出来ぬ。
オーガには今まで体験したこともない強い恐怖を我にいだいているだろう。
前の姿なら威力は倍増であったが、今の姿だと効果半減といったところか?
それでもすぐに回れ右で逃げ出さなかったのは褒めてやろう。
しかし愚かな判断だ。
もう一匹も攻撃しようとしてきたが、飛び込んできたゾンビウルフに阻まれる。
やっときおったか。
しかし特別製とは言えオーガ相手はちと厳しいか? ならば。
『モリーよ。結界をはれ。ここで召喚する』
『オーガは贄に出来ない状況ですが良いのですか?』
『かまわん。モリーよ。確かマルコキアスは盟友であったよな?』
『マルコキアスですか。
『あやつは確か狼の姿を持っておったはず。コボルドゾンビの贄で得たものを足して、このゾンビウルフを依代とする』
『なるほど、良い判断かと。より強大なマルコキアスが呼べることでしょう』
逃げるモヒカンに伸びる鞭で足を取り、こちらに投げる。
一人でも多く捧げられるよう気を利かしてくれたようだ。
そこから詠唱に入り、すぐに結界ははられた。
外からこちらは見えず、また中から逃げることも叶わない結界だ。
それは魂だけになっても変わらない。
範囲内にいるがオーガだけは何が起こっているのか分からない、除外されているから。
しかし一匹は恐怖に取り憑かれているし、もう一匹はゾンビウルフと対峙していてそれどころではない。
そのゾンビウルフに力が集まる。
〈パラライズストーム〉により麻痺し体は動かせないが、意識はあるモヒカンどもも恐怖に震えていた。彼らは存在そのものが消えていくのだから。
そして最後に消えるのは意識なのだから自分が消えゆくさまを感じながら消えていくのだ。
それはそのモヒカンがそこにいたという証拠さえ消していき、また可能性、明日には味方に裏切られ殺されるものも、彼らが更生し真っ当に生涯を終えるというものも、すべての可能性がなくなっていくのを感じながら、自分という個が消えていくのを自覚しながら消えていった。
いや、消えたのではなくマルコキアスに吸収されたのだ。
そして契約が成立した。
「げぇっぷ。数だけは多いが質の悪い【可能性】だな。まあいい。ゴーティア、マルコキアス、魔王アルデリウス様の配下となろう」
元々大型だったゾンビウルフが猛禽類の翼をもった光り輝く超大型の狼となり、良い声でそんな事を言う。翼の羽が金色に輝き、結界内の空気を震わせる。
「よく来た。マルコキアスよ。細かいことは後で言おう。今はそいつらをなでてやってくれ」
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