第12話 救いの手
ほんの数分で村長とやらがやってきた。
「お待たせしました。ネソ村長のワジャです。あの二人を連れて村から離れてもらいたいところなのですが、何もお話せずそれを頼むのも酷、というかわけがわからないと思いますので」
返礼として我とモリー、ハノンが名乗った。
戦士の二人は元々この村のものらしいし、ここにはおらぬのでいいだろう。
ネソ村長ワジャは年寄りではあると思うが、まだ筋肉が付いている偉丈夫であるようだ。
「我が村は昔からハーシェル領に所属していました。が位置はどう考えても隣のブヴァードに属するのです」
そこでいったん区切った。我らがここまでを理解できているかを確かめるように。まだこのワジャは魅了しておらぬからな。
「うむ。理解しておる」
「ずっと気に食わなかったのか、突然野党の集団にしか見えない奴らがブヴァードの領主の印がついた書状を持ってきました。今年からこの村をブヴァードに編入すると。それだけなら良かったのですが、今後税として冬の三ヶ月の間、男は人足として領のために働くことと、収穫物の九割を要求されました。ちなみに今まで所属していたハーシェルでは労働税はなく、三割でした」
ふむ、よく分からぬが法外な要求だということだけは分かった。
「今まで三割あったものが九割になるなど、それだけでもたいがいですのに、労働税まで要求されては女も生きていけません。なんとかその酷い要求を撤回してもらおうと来た者と話したのですが、まるで話になりませんでした」
であろうな、そんな法外な要求をしてくる者が話し合いでなんとかなるとも思えん。
「それどころか本来は七割であって二割は俺たちの分だ、とか言い出す始末。そして領主からは別にこのネソの村を潰しても構わない、と言われているとまで……。こうなっては戦うしかありません!」
村長ワジャは話しているうちに怒りがわいてきたのだろう。語気が強くなっておる。しかしまあ当然よな。すなわち死ねと言われたのと同然、と。
そして死が決まっておるなら抵抗はしようということだろう。
「なんてことだ」
ハノンは青ざめておる。
「ハーシェルの方へ確認にはいったのですか?」
モリーがもっともなことを言った。
「はい、もちろんです。もっとも優秀だった若者に向かわせました。が、ここからハーシェル領のもっとも近い街ですら一週間近くかかりますし、そこからさらに領主様からの返事と救援が来るとなっても、さらに倍以上はかかるでしょう。しかしやつらはそれまでに既成事実として私がブヴァードへの編入を認めたという書状を書かせたいらしく、脅されております。しかしそれを書いたら最後、ブヴァードはそれを根拠に難癖をつけ続けてくると思います。ハーシェル領の領主様にはお世話になっておるので裏切るわけには……」
そうか。魔属であれば念話でちょいだが、この世界では通信と言えるものはないのだな。
となれば対応に一ヶ月はかかりそうだ。
一ヶ月も野盗紛いの連中の要求は無視できないだろう。
確かにこの村は終わりかもな。我がいなければ、な。
「なるほど、話は分かった。我らがなんとかしてやってもいいぞ?」
「え? ……申し訳ないがお嬢様方のお遊びではございません。火傷どころか命を失うかもしれませんぞ。どうか二人を連れてはようお逃げ……」
「ワジャと申したか。お主魔法が使えるじゃろ? ならば我の今の魔力がどのようなものか、ある程度は理解できるのではないか?」
そういいつつ、髪の毛で隠れている額の魔石から魔力を溢れさせる。並の魔法使いでは到底制御できないほどの魔力をな。
「おお……、しかし……」
「我だけでないぞ。ここにおるモリーも我ほどではないが強力な魔法の使い手よ。それにこのハノンも役に立つ。たまたまじゃったがあの戦士二人も我が眷属となったのだ。眷属の血族が陥られようとしているのを黙って見過ごすわけにはいかんのだ」
それを黙って見過ごせばいつかそれは反乱の種となる。
いくら魅了で好感度を上げておってもな。我は反乱、裏切りに詳しいんじゃ。
「ワジャよ、この村の長よ。お主が我に、このアリスに属すると言えば助けてやろう。希望を与えてやる。もちろん、なんじゃったかな? ハーシェルだったか? それへの裏切りにはならんようにしてやる」
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