第11話 滅ぶ村
「おかしいぞ? 人がいなさすぎる」
我らは村の領域に入ったが、なにやら視線は感じるのに村人と未だに会わぬ。
戦士二人アロンとサムソンは狼狽えておる。
二人共両親がここにいるらしいからな。
いるはずの血縁を見ないのは確かにおかしいわな。
「普段なら今どきはこの辺の畑の手入れをしているはずなんだが」
我はモリーが召喚した駱駝なる四足獣に乗って移動している。
モリーは乗騎を操るためと我の前に座っているが、実際のところはハノンが綱を持って横を歩いて制御しておるようだ。
戦士の二人は慌ててはいるものの我らから大きく離れることはなく、探索をしておる。
村の中央にある唯一の宿屋らしいところでようやくそこから村人らしき者が出てきた、が長い柄の農具を振りかざし、我らに警告してくる。
「なんじゃお前らは? よそ者は出て行け!」
慌てて戦士たちが弁解する。
「待ってくれよ、ルデンのおっちゃん! 俺たちだよ、アロンにサムソンだよ!」
ルデンと呼ばれた者は一瞬顔が緩んだがすぐに元に戻った。
「……まったくこんなときに帰ってきちまったのか、お前ら。悪いことは言わねぇ、そのよく分からん獣に乗ってるお嬢さん方を連れて、とっとと村から離れるんだ。……この村はもう滅ぶ」
「ど、どういうことだよ、ルデンのおっちゃん! 俺たちに出来ることはないのか。少なくとも話ぐらいは聞かせてくれ」
なんだがよく分からんが面白いことになっているようだな。
闘争の匂いがする。
我の好物だ。
なにせ我の今の属性は【希望】であるからな。
支配しているもの、魔将やアークデビルでもよいが、支配下におる人間どもが、希望という微かな望みを抱けば、それだけで我には力が与えられるのだからの。
何故と言われても知らぬ。
魔王の属性とはそういうものだからだ。支配下においてそれを与えれば我に力が流れ込む。
だから魔王は己の持つ属性に沿った行動を取るのだ。
そして闘争があるなら希望を与えるのも容易いだろう。
支配下におくのもな。
『モリー、頼む』
「ルデンという御仁よ。私達にも話をしてくれないか。大事な二人の村なのだろう? 出来ることがあるならさせてもらいたい」
モリーが強い口調でルデンとやらに騎乗から声をかける。……これは魅了の声だな。手っ取り早くルデンも魅了し、話を聞き出そうということか。
魅了、便利だな。我も習得したいものだ。
以前の姿だと魅了などなんの役にも立たないからと覚えておらぬのだ。
「そ、そういうことなら。村長がここの中にいるのでそこで話をしよう。その獣は馬が怯えそうだから、入り口にでも結わえておいてくれ」
モリーに下ろしてもらって戦士二人のあとについていく。
今の我は背が低いからな。
人間の年齢など分からぬが、モリーによると十二才程度ではないか、と言われた。
よく分からぬがモリーとしては非常に都合の良い年齢程度とのことだ。
我としては身長も筋力も足りなさすぎるのに胸だけはそれなりに大きくなっているのがまた煩わしいのだがな。
モリーは我と並んで、ハノンは我の後についてくる。
建物に入ると、店というやつだな。そこに大勢人間がおった。
「親父!」
「母さん」
二人がそれぞれ声を上げる。
「アロンさん、サムソンさん、話はわたくしたちが聞いておきますので、自由にしていいですよ」
モリーが我の意を察し二人にこそっと声をかけた。二人は大勢の人の中に入っていった。
「村長を紹介します」
ルデンが我とモリー、ハノンを二階に誘導した。二階にいるのか? ああ、ここには大勢いるから分けてくれたのか。一室に案内されたのでそこに入り、待つ。
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