第4話 番犬

コボルドのくせに快適な建物を建築していた。


建物の中で火を使える施設もあった。


人間どもが持っていた食い物は保存食とはいえ、飢えていた我には十分なものであった。


カロリーの塊みたいなものもあったしな。


冷えていた体が建物と衣服、調理の炎で温まったし、結構なカロリーも得た。


ので、体力もかなり回復した。まだ日は沈んでいないので、沈む前に出来ることはしておこう。


まず数体コボルドをゾンビとして起こし、そやつらに人間の死体を別の建物に運び込ませた。コボルドゾンビがビクビクと体を震わせ、赤い目で死体を運ぶ姿が、薄暮の影に溶け込む。


その人間の死体にまず保存魔法をかける。


「〈プリザーベイション〉」


これで当分はこれ以上痛むことなくそのまま維持されるであろう。


復活かゾンビか、どちらにするにせよ鮮度は大事だからな。


そして残るコボルドの死体全てにゾンビ化の魔法をかけ、ゾンビにした。


「〈アニメイテッドデッド〉」


コボルドとはいえゾンビであればそれなりの戦闘力がある。生きている時より戦力は上がったはずだ。ゾンビどもがカサカサと動き出し、集落の周囲を巡り始める。


さてこれで数日は問題ないだろう。


明日は森の探索や食料や水の確保をさせるかな。


消費するのは我だけなのでここにあった備蓄だけでも数ヶ月は持つだろうが、人間であれば肉だけを食い続けるわけもいかんだろう。


やはり誰か一人は復活させるか? 今の我には人間としての知識が足りなさすぎる。


それとも人間の死体を贄として使って、アークデビルでも召喚しておくべきか?


必要なのは人間としての知識だし、知識系のものならあまり問題はないか?


今の我にアークを制御できるかどうか分からんのが問題だが。


かといってグレーターやレッサーに知識系はおらんかったはずだしな。


戦力としてはレッサーであっても今の我には過剰で余計な敵を呼び寄せることになりかねんしな。


悩むのは明日にするか。


カロリーも使い切ってしまっているし、これ以上考えると体力を消耗しすぎてしまうだろう。


同じ味でつまらんがまた保存食をいただこう。

コボルドの備蓄として四足獣の枝肉はあったのだが、カロリー的にも手間的にも保存食のほうがよさそうなのでな。


食べたら寝よう。

毛皮があるので十分に休めるだろう。


ゾンビに我がいる建物や集落自体への警戒をさせているので問題は起こらぬはずだし、多少のものならゾンビどもが勝手に処理してくれるだろう。


もう眠くて仕方ないわ。以前の体であれば休息などほとんど必要なかったのだがな。仕方あるまい。


……


……すやすやと寝てしまったようだ。


前の体なら王座に腰掛けて寝ることはあったが体を横にして何時間も寝るなどしたことがなかった。


意識を失うのが非効率的だったからな。


しかしこの体ではそんなことを言っておれぬほどの眠気があったわ。


太陽が登るまで寝ておったから八時間は寝たな。


すっきりした気分で外へ出た。


コボルドゾンビどもが元気に巡回しておるわ。


ん? 片腕をなくしておるゾンビがおる。

しかも血を垂れ流したままだ。


〈アニメイテッドデッド〉でゾンビ化したものがそう時間も立っておらぬのに、そうなるのはおかしい。なにかあったか?


まだ気温が上がっていない朝だからか寒かったのでマントを羽織ってから、片腕のゾンビがやってきた方向へ行ってみる。


念のため、周辺に居たコボルドゾンビを何体かひきつれて。


……


集落の入り口あたりに狼の死体が転がっておった。


足跡を見る限り数体おったようだが、一体だけ返り討ちにできたが、残る数匹がコボルドゾンビの片腕を噛みちぎって持っていきおったか。


かなり大きな狼である。よく返り討ちに出来たものだ。

ゾンビでないなら褒めてやってもよいぐらいだ。

ゾンビを褒めたところでゾンビだしな。


狼の死体は四肢損壊はないようだし、

こやつもゾンビとしよう。


しかも特別製の強化ゾンビだ。

今なら余裕があるしな。体を洗えばゾンビにも見えなくなるだろう。


しかし裸で森をうろついているときに狼どもに遭遇せんで良かったな。

負けることはないだろうが、いろいろとうざかったのは間違いないだろう。

これからはこやつを番犬とすればそうそう狼どももこちらに来ることはないだろう。


鼻も役立つかもしれんしな。


他に変化はないようだな。飯を食ってカロリーを得、体力を回復せねば。


遠くの森から新たな気配が漂い、狼の鼻がピクピクと反応していた……。

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