第3話 集落を乗っ取る

生きて動くものはもはや何もいない、凄惨な地と化したコボルドの集落を歩く。


ぱっと見では何がどこにあるのかも分からぬ。


そういえば人間の女の死体もあったな。

そやつは今の我に有用な何かを持っているかもしれない。


ゾンビラットに案内させる。ラットがガサガサと瓦礫を掻き分け、死体の方へ導く。


こやつか。


確かに女だが大きいな。


頭、というか顔に矢を食らって一撃、といったところか。


集落の入り口付近だから侵入した途端、気づいていたコボルドに射抜かれたといったところか。


履いている靴は明らかに今の我には大きいサイズだ。

バックパックを探る。

これはおそらく下着替わりとなる布とピンか。

着替えだな。


非常に粗末なものだがないよりはましだろう。

拝借するとしよう。複数あれば足に巻き付けて靴代わりに出来たのだが。


服ならば多少ぶかぶかでもいいかと思ったが、マントだけで良いか……ふん、この程度で威厳を保てるとは思えぬが、仕方あるまい。


そういえばゾンビラットが見つけたもう一人の人間の男の死体は小さかったな。


この女より良いものを持っているかもしれん。


と、このままバックパック自体もいただくことにしよう。

もうこやつには必要ではないものだろうしな。我がもらっておいてやろう。


もう一人の男の死体は、これは男と言ってもまだ子供だったか?


付近にワンドらしきものも転がっておるし、魔法使いだったのかもな。


普通に囲まれて殺されておるな。

服はサイズがあってそうなのに切り傷刺し傷でぼろぼろだ。


さすがにこれをはいで着る気にはならんな……血の臭いが少女の肌に染みつくなど、洒落にならぬ。

足のサイズはあってそうだから靴はいただくことにしよう。


バックパックにはこちらにも着替えが入っておった。

これはありがたい。


下着だけでなく普通の服も入っておった。

しかもそれなりに高級そうな服だ。

男物だから若干問題があるかもしれないが致し方あるまい。


こやつのバックパックはやや小さく、容量もその分小さいが持ちやすそうだ。


先ほど女からいただいてきたバックパックとどちらがよいかのう?

今は物資を集めている最中であるし、両方持っていくことにするか。


次はマミーラットがとどめをさした男を見ることにしよう。


この男は明らかに戦士であるな。


鎧とヘルムを身につけておったしな。


武器を含めて全てが我には大きすぎて使えんな。

サブウェポンなのか道具なのか分からんがナイフだけは使えそうだしベルトで固定できそうだからもらっておこう……この刃、意外と手に馴染むな。少女の指に似合わぬが。


こやつのバックパックは大きいのう。


おお、保存食が入っておるわ。

他の者は持っておらんかったからこやつが全員分を持っておったのか。

水とワインもあるな。どちらも質は悪いが今の我にはありがたい。


他にはキャンプ用品らしきものが入っておったが我には使い方が分からんものが多いな。

分かるものだけ使わせてもらおう。


さて、物資は集まった。


すぐに欲しかった衣服と靴、そして食い物があった。


そしてここは集落。コボルドの地だがコボルドはすでに全滅しておる。

今すぐここから離れるのもありだが、我には未だ目的がない。


目的もなく森をさまようのは得策ではないだろう。


しまった、今にして気づいたが、先程この男を殺すべきではなかったかもしれん。


我は【絶望】の魔王であったが【希望】となったのだから殺さず助けてやれば力が手に入ったやもしれんかったな。うすい望みを与えればよいのだろうから。


惜しいことをした。失念しておったわ。

配下でなくても徴収できるのに、以前はその必要がなかったからのう。

ぬかったがもはや過ぎたこと、忘れよう。


それにしても冒険者どもがこの集落に攻めてきたということは、ある程度人間どもに知られているということ。

近くに人間の集落があるのかもしれん。

大きな街ではないだろう。


街であればこのような貧弱な戦力で攻め入って相打ちで全滅しかけるなどせぬだろう。


となれば村程度か、街道が付近にあるか、だ。


どちらにせよすぐにまた人間が攻めてくることもないだろう、最悪でも一週間程度の猶予はあるはず。


ならば我はここで戦力を整え、返り討ちにするのが良いだろう。


となるとここのコボルドどもは全てゾンビにするか。

人間もゾンビにしてもいいが、復活させたほうが有用な気もしないこともない。


戦士は我がとどめを刺したからゾンビにするべきだろうが、いまはまだいい。

となるとどちらにするにも人間の死体には保存の魔法をかけておいたほうが良いだろうな。


コボルドどもならまとめてゾンビに出来るだろうが、人間にはそれなりの魔力がいるだろう。

だが今の我にはそこまでの魔力はあっても体力、カロリーが足りない。


マミーラットも破壊され、今の戦力はゾンビラットにスケルトンラット、ゾンビスネークしかおらぬ。数体先にコボルドをゾンビとしておくか。


まず人間に保存魔法〈プリザーベイション〉をかけねばならんし、とりあえず一体だけ起こしておこう。


戦士が最後にとどめを刺したコボルドにゾンビ化の魔法をかける。

「〈アニメイテッドデッド〉」


無言でその大きなコボルドが起き上がる。ビクンと体が震え、赤い目が開く。


こやつには集落を回らせて警戒するよう命令する。


ゾンビラットやゾンビスネークには人間の死体を見張らせることにする。


血の匂いを嗅ぎつけて狼や魔獣どもがこないとも限らん。


もはや人間にしか見えない今の我ではそらつらを止めるには実力しかないだろうが、その実力が今はほとんどない。

とりあえず休まなければ、そしてカロリーを取らなければ。


我は目をつけておいたこの集落でもっとも大きな建物で休み、食事を摂ることにした。


建物に入る直前、遠くから狼の遠吠えが響き、森の闇がざわつく……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る