第5話 捕縛

保存食も減ってきたな。

あと数日分もないぞ。


まあ腹を満たすだけならコボルドの備蓄でなんとかなるが、カロリーがイマイチだ。


脂があまり付いておらぬからな。


砂糖などもいいのだが、森の中ではなかなか得られるものではないな。


甘い果実ならあるかもしれんが、そういったものは他のものたちも優先して取っていくだろうからな。今の我が容易に取れる、ということはないだろう。


だから肉の脂が一番なのだが、我は狩りなどしたことがない。


それに前の体なら生の肉をそのまま食えたが、今のこの体でそれをやろうとは思えん。


もちろん解体などしたことはないし、料理も保存食を切るや煮込むぐらいしかしたことがない。


それだってこの前この体になって初めてやったことだ。


やはり人間の誰かを復活させるべきか。


我が今一番必要としていることに習熟してそうなのが我がマミーラットをけしかけて殺した戦士なんだよなぁ。


それがネックとなっている。

直接ではなかったのが救いだが、もし聡い者なら我の仕業だと気づくだろうからな。


まだ慌てるような時期でもない、と思い直す。


人間が残した装備やバックパックなどを改めて確認していると、ウルフゾンビが吠えてきた。ガルルと低く唸る声が、森の静けさを破る。


こやつは特別製のゾンビだからまだ頭は回るはずだし、なにか我に伝えようとしているようだ。


嗅ぎ回っているようだし、付いてこいという感じだな。


護衛としてコボルドゾンビ数体にゾンビラット、ゾンビスネークもバックパックに入れて連れていく。


スケルトンラットは留守番だ。


雑に森の中へウルフゾンビが入っていくのでそれについていく。

しばらく進むと伏せて止まったので、こちらも警戒しつつ伏せて止まる。

ゾンビどもも同様にさせる。ウルフゾンビの耳がピクピクと動き、風に鼻を向ける。


ふむ? これは人の声か?

同じ方向から足音も複数聞こえる。


これは好都合。


わざわざ危険を犯して、カロリーを消費してまで復活させる必要はなくなったかもしれん。

強くないやつなら良いのだが。


ゾンビどもにゆっくり静かにあの足音の方を取り囲むように移動させる。


見えてきた。


男が三人か。二人は見るからに戦士。


一人はなんだ?

大きなバックパックを背負ってはいるが街にいる普通の人間のようにも見える。

戦士風がその男を挟んで歩いているからこいつが護衛対象ということか。


「この辺にコボルドが住みついているのが分かったと聞いて、お二人を雇ったんですよ」


「コボルドごとき護衛一人で十分だと思いますがね。なんならあなた一人でも切り抜けられると思います」


「そうはいっても怖いじゃないですか。命あってのものだねですよ」


「それもそうですね、ははは」


確定だ。真ん中のやつをなんとかすれば護衛ならなんとでもなるだろう。

最悪殺してしまっても構わんだろう。

しかし生きているからこそ役立つということもあるというか、そこで詰まってしまっていたから、捕らえる方向で動こう。


伏せておいたゾンビたちを威嚇として出現させる。シャーッと蛇の音が響き、ゾンビの赤い目が人間どもを捉える。


そちらに人間どもが気を取られた隙に眠りの魔法〈スリープクラウド〉を三人に向けて放つ。


「〈スリープクラウド〉」


霧のような眠りの煙が広がり、護衛らしき二人は即座に崩れ落ちる。


驚いたことに護衛対象は眠らなかった。

まあ〈スリープクラウド〉は牽制みたいなものだ。本命はこちらだ。


「〈マジックロープ:バインド〉」


魔法の縄で拘束する魔法だ。どちらも低級な魔法だが意外と魔王であっても使うことがある魔法だ。

なぜなら便利だから。


〈ブレードネット〉では相手を傷つけるし脱出される可能性が残る。

〈パラライズ〉や〈ストーン〉、〈ストップ〉は相手の行動を完全に封じてしまうので尋問もできなくなる。


ともかく三人とも捕まえた。

意識がある護衛対象だった男は我を見て混乱したようだが、すぐに命乞いを始めた。


寝ている二人にも〈マジックロープ:バインド〉をかけてから、コボルドゾンビに運ばせた。


眠っていない男はゾンビスネークを首に絡ませてから足の拘束だけ外して自分で歩かせることにした。


もちろん逃げようとしたらゾンビスネークが首に噛みついて終わりだ。


説明しなくても男は理解してくれたようで素直についてきた。


男の目が、意外な光を宿し、我をちらりと見上げた……。

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