第9話 EP02-04 それぞれの強さ

 このは『ユーナベルム戦場せんじょう』。人間にんげんぐん魔物まものぐんたたかいのだ。

 オレは『新実にいみ 健二けんじ』。中二ちゅうに男子だんしひと武器ぶきのこしたつよ記憶きおくたたかう『心剣士しんけんし』だ。


 意味不明いみふめいだ。赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん騎士団長きしだんちょうロゼリアが、つの魔物まものヴォモスの、巨体きょたい突進とっしんめてしまった。

 なになんだか、からない。なにも、いてない。

 ……つよ魔法まほう使つかえる軍人ぐんじん軍事ぐんじ機密きみつったなしだろうから、おしえてくれるはずもないか。


 それでも、状況じょうきょうればかることがある。予想よそうできることもある。


「……そういうことか?」

 オレは、キメがおひとごとつぶやいた。そのほうが、格好いいクールながしたから。


 ロゼリアは、たぶん、超強力ちょうきょうりょく防御ぼうぎょけい魔法まほう使つかいだ。つのを、長槍ながやりたいのサポートはあれど、めた。生半可なまはんかつよさじゃない。

 防御ぼうぎょけい推測すいそくするのは、ヴォモスをめたのに、反撃はんげきしないからである。攻防こうぼう一体いったい魔法まほうなら、即座そくざ反撃はんげきする。


 有効ゆうこう攻撃こうげき手段しゅだんがないなら、赤薔薇レッドローズ騎士団きしだんにできるのは『ヴォモスをめる』まで。

 ヴォモスが大暴おおあばれできないように足止あしどめにてっする。そういう戦術せんじゅつかんがえるのが妥当だとうか。


『ヴォォォォォッ!』

 かわいた土色つちいろ平原へいげんに、ヴォモスが重低音じゅうていおんえる。ロゼリアをつぶそうと、ふとあし地面じめんく。

 でも、その巨体きょたいは、いちミリたりとも、まったすすまない。


 オレが使つかえる『心剣士しんけんし』の魔法まほうは、戦闘せんとうけい最上級さいじょうきゅうだが。

 ロゼリアが使つか防御ぼうぎょけい魔法まほうれば。かくかくかえすような使つかかたたりにすれば。つよさだけがつよさじゃないと、ややこしいな、おもる。


   ◇


てきひるんでるぞ! 一気いっきくずせ!」

 騎士きし兵士へいしたちが、赤銅色しゃくどういろのオッサンみたいなひとつのどもにりかかる。砂埃すなぼこりう。剣戟けんげきおとが、そこらじゅうでひびく。


 人間の軍こっち士気しきたかい。魔物の軍あっちはボスをめられて、最初さいしょほどのいきおいはない。

 それでも、ひとつのどもはしはしない。魔物まもの統制とうせいなんて、元々もともとあってないようなものだ。まえ人間にんげんころせるなら、戦局せんきょくとかどうでもいいのだろう。


 かずは、人間にんげん二人ふたりあた魔物まもの一体いったいってところか。

 ひとつのですら、訓練くんれんんで武装ぶそうした人間にんげん数人すうにんかりで互角ごかく。だから、簡単かんたんたおせる比率じゃない。

 一体いったい簡単かんたんにはたおせないのに、無論むろん集団しゅうだん一気いっきくずすなんて無理むりだ。むしろ、このままたたかつづけると、地力じりき逆転ぎゃくてんされるおそれすらある。


 天下てんかのゲシュペンスト騎士団きしだんが、このまま、ってことはないとおもうけど。


 それと、魔物の軍あっちにはひとつのだけじゃなくて


「うわぁーっ?!」

 悲鳴ひめいと、金属板きんぞくばんひしゃけるおとこえた。重装金属鎧ヘビーアーマー騎士きしたかいて、砂埃すなぼこりなかちた。

 ちかくに、騎士きし兵士へいしたちの二倍にばいおおきさの、ふたつの魔物まもの姿すがたがある。ざつ一言ひとことで、赤黒あかぐろ鶏怪人にわとりかいじんっぽいをしてる。


「このリヒトに! そいつはまかせたまえ!」

 リヒトが、戦場せんじょうでも目立めだ白銀はくぎん軍服ぐんぷくで、みみくジェントルマンなくせのある声音こわねで、たからかに名乗なのりをあげた。


 リヒトは、長剣ロングソードにぎり、く。

「はぁぁぁーっ!」

 気合きあいこえみ、ふたつのりつける。

「ケーッ?!」

 ふたつのんで、たかきながら砂埃すなぼこりころがった。


「まだまだぁっ!」

 リヒトがにある長剣ロングソードほうり、ちかくにあったべつ長剣ロングソードひろう。み、まえふさひとつのたおす。

 ひとつのえて、つのころがる。


 リヒトがその長剣ロングソードほうり、またべつ長剣ロングソードにぎる。

「これで! 仕舞しまいだとも!」

 たおれてきあがろうとするふたつのり、えるようにあか刀身とうしんてた。ふたつのえて、二股ふたまたつのころがった。


 リヒトをころそうと、周囲しゅういひとつのどもがむらがる。ちかくの騎士きし兵士へいしたちが素早すばや応戦おうせんし、フォローにはいる。

 さすがリヒトはつよい。ゲシュペンスト騎士団きしだんつよい。集団戦しゅうだんせんたたかれてる。


   ◇


 オレもリヒトも、『心剣士しんけんし』は『戦闘せんとうけい最上級さいじょうきゅう』とひょうされるほどにつよい。そのつよさには、明確めいかく理由りゆうがある。


 まずひとつ。魔法まほう精神力せいしんりょく消費しょうひして発動はつどうする。かたほかにも、魔力まりょくこころちから気力きりょく根性こんじょう、と色々いろいろある。

 精神力せいしんりょく有限ゆうげんである。強力きょうりょく魔法まほうほど、大量たいりょう精神力せいしんりょくようする。消費しょうひしたら回復かいふく必要ひつようもあるし、枯渇こかつすれば魔法まほう使つかえない。

 その精神力せいしんりょくを、『心剣士しんけんし』は、『ひと武器ぶきのこしたつよ記憶きおく』から流用りゅうようできる。つよ記憶きおくのこ武器ぶき無尽蔵むじんぞうはいれば、強力きょうりょく魔法まほう無尽蔵むじんぞう使つかえる。


 オレには、そんな都合つごう状況じょうきょういが? 少女しょうじょつよ記憶きおくのこ武器ぶきって、そもそもなんだよ?

 くらべて、リヒトは本当ほんとうつよい。屈強くっきょう兵士へいし記憶きおくのこ武器ぶきは、戦場せんじょうならそれこそ、ほぼ無尽蔵むじんぞうはいる。


つのだ! 包囲ほういして討伐とうばつする! 陣形じんけいととのうまで距離きょりたもて!」

 騎士きし一人ひとり号令ごうれいした。オレは名前なまえらない、この千人せんにんたい指揮官しきかんだろう。


 騎士団長きしだんちょうのゲシュペンスト本人ほんにんは、後方こうほう馬上ばじょうで、もくして戦況せんきょうている。右目みぎめくろ眼帯がんたいをした初老しょろうかおに、一切いっさい感情かんじょうかんじられない。


 それより、つのだ。魔物の軍あっちはしたいのボスだ。討伐とうばつできればザコ魔物まものどもは大混乱だいこんらん、ユーナベルムじょうあとへの潜入せんにゅう成功せいこうしたも同然どうぜんだ。


「うぎゃっ?!」

 赤黒あかぐろひづめ一蹴ひとけりで、騎士きし三人さんにんぶ。大きデカい! 一目ひとめかる。

 逆関節ぎゃくかんせつ二足歩行にそくほこう前傾ぜんけいして、四足よんそくけものちか体躯たいくをしてる。赤一色あかいっしょく丸目まるめで、うえから見下みおろすようにのぞみ、背中せなかりあがる。かくばったひたいには、一本いっぽん根元ねもとから三股みつまたかれて、ゆるがったつのがある。


 あれ? どこかでたことが

「……ひっ?!」

 美月みつきちいさく悲鳴ひめいをあげた。ひどふるえるほそで、オレのワイシャツのすそつかんだ。

 オレは、おもした。実際じっさい遭遇そうぐうはじめてで、でも、記憶きおくがあった。

 ナントリむら廃墟はいきょ戦場せんじょうで、少女しょうじょ記憶きおくつのだ。ナントリむら襲撃しゅうげきした魔物まものどものボス、まだ六歳ろくさい美月みつきおそった魔物ヤツだ。


 八年はちねんしで戦場せんじょうでの再会さいかいとは。これも運命うんめい悪戯いたずらか。はたまたゲシュペンストのお膳立ぜんだてか。


 いや、オレには関係かんけいないか。めるのは、める権利けんりつのは、美月みつき本人ほんにんだけだ。

 オレは美月みつきかえる。

「どうする? かたきちたいなら、全力ぜんりょくでサポートするぜ?」

 美月みつきは、ふるえるで、ほそこしにさがる細剣レイピアにぎる。

「ワ、ワタシは……」

 ひとみには、恐怖きょうふがある。いかりのほのおではなく、えとした恐怖きょうふだけがある。


 そりゃそうだ。三つ角バケモノおそわれてにかけた六歳ろくさいおんなに、恐怖きょうふ以外いがい感情かんじょうがあるわけがない。幼少ようしょうころ曖昧あいまい記憶きおくしかなくて、そこからあたらしい生活せいかつはじまって、八年はちねんって、いかりとか復讐ふくしゅうなんてドスぐろ感情かんじょうってるわけもない。美月みつきあねだって、そんなことのために美月みつきまもったわけじゃない。


「だったら、オレがわりにやってやる! オレが、美月みつきを、絶対ぜったいまもってやる!」

 オレはあねてき心情しんじょうで。おなどしおとこだけど。美月みつきこし細剣レイピアにぎり、わりにいた。

 オレは、少女しょうじょ武器ぶきのこしたつよ記憶きおくたたかう『心剣士しんけんし』だ。

「そうか、これが、美月みつきおもいか」


 それは、『心剣士しんけんし』のつよさの理由りゆうの、もうひとつ。

 武器ぶきのこ記憶きおくって、発動はつどうする魔法まほうちがう。いかりならば攻撃こうげきけいやさしさならば防御ぼうぎょけい、みたいなかんじである。


 美月みつきの、けたおんかえしたい、今度こんど自分じぶんみんなちからになりたい、っておもいなら。


 オレは、細剣レイピア頭上ずじょうたかくにかかげる。たからかに宣言せんげんする。

みんな! 美月みつきおもい! 感謝かんしゃしてってくれ!」

 全身ぜんしんに、ちからきあがった。からだあつく、ながれが自覚じかくできるほど加速かそくした。恐怖きょうふび、こころ勇気ゆうきたされた。


『うおおぉぉぉっっっっ!!!!!』

 ちから奔流ほんりゅう高揚こうようし、オレは雄叫びウォー クライをあげた。騎士きし兵士へいし千名せんめいも、同時どうじ雄叫おたけびをあげた。


 みんなちからになりたい、っておもいなら、強化バフけい魔法まほう発動はつどうする。

 これが、『心剣士しんけんし』の、……いな

 これが、美月みつきおもいの、つよさだ!



心剣士

第09話 EP02-04 それぞれのつよさ/END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る