第8話 EP02-03 赤薔薇

 このは『ユーナベルム戦場せんじょう』。人間にんげんぐん魔物まものぐんたたかいのだ。

 オレは『新実にいみ 健二けんじ』。中二ちゅうに男子だんしひと武器ぶきのこしたつよ記憶きおくたたかう『心剣士しんけんし』だ。


長槍ながやりたい! パイク、かまえなさいませ!』

 本隊ほんたい中央ちゅうおうから、精悍せいかんおんなこえが、ここまでこえた。


 あか全身金板鎧フルプレートメイル赤薔薇レッドローズ騎士きし数百すうひゃくが、さんメートルをえる長槍ながやりかまえて前進ぜんしんする。そろってあしをとめ、長槍ながやり柄尻えじり地面じめんき、やり迎撃柵げいげきさく形成けいせいする。

 戦場せんじょう長槍ながやりたいめずらしい。


 魔物まものとの戦闘せんとうは、歩兵ほへい基本きほんだ。騎兵きへい槍兵やりへいは、ほぼ運用うんようされない。いたとして、せいぜい、指揮官しきかん指揮しきしやすい馬上ばじょうにいる、くらいか。

 なぜなら、魔物まものは、つよく、少数しょうすうで、散開さんかいするからだ。多数たすう密集みっしゅう たい 多数たすう密集みっしゅう の 正面しょうめん衝突しょうとつ を想定そうていした騎兵きへい槍兵やりへいは、魔物まものせんでは出番でばんがない。

 いちたいいちとなると、魔物まものは、すばしっこかったり、うまよりパワフルだったり、巨大デカすぎたりで、やりでは致命傷ちめいしょうあたえづらい。

 森林しんりんせんけられない戦局せんきょくもある、ってのも一因いちいんだ。障害物しょうがいぶつだらけの森林しんりんせんになろうものなら、ながやり障害物しょうがいぶつっかかりまくってやくにもたない。


 だから、赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん長槍ながやりたいは、ピンポイントにてきボスのヴォモス対策たいさくだろう。

 あんなバケモノに野放図のほうず本隊ほんたいらされたら、あらゆる戦術せんじゅつばされて敗走はいそう間違まちがいない。それをふせぐために、進路上しんろじょうやり迎撃柵げいげきさく構築こうちくする。

 その無茶むちゃ役割やくわりにな騎士きし覚悟かくごには、敬服けいふくするばかりだ。殺意さつい全開ぜんかい突進とっしんしてくるビルサイズに、ふせげる保証ほしょうもなくさらひとたちの心中しんちゅうたるや、いかばかりか。


『ヴォォォォォッ!』

 かわいた土色つちいろ平原へいげんに、ヴォモスが重低音じゅうていおんえた。魔物まものどもの突進とっしん加速かそくした。

 戦場せんじょう雰囲気ふんいきわった。緊張きんちょうから、これは、たぶん、恐怖きょうふわった。


 いよいよ、人間の軍こっち魔物の軍あっち衝突しょうとつする。


 オレは、最初さいしょから恐怖きょうふしてましたが、なにか?

 歴戦れきせん騎士きし兵士へいしでも恐怖きょうふするほど、ヴォモスがヤバい。ただけで、異常いじょうにデカい。けたちが質量しつりょう突進とっしんしてくる絶望感ぜつぼうかんとか、遠目とおめにいても、げたい。


勇敢ゆうかんなる騎士きし兵士へいしたちよ!』

 精悍せいかんおんなこえひびいた。あかいパーツがドレスのようなデザインの金板鎧プレートメイルで、たかおんな長槍ながやりたいうしろへとあゆた。

 戦場せんじょう喧騒けんそうされるのに、ガチャン、ガチャンと金板プレートおとこえるような、堂々どうどうたる登場とうじょうである。


 あのよろいひと雑誌ざっし記事きじたことある。赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん騎士団長きしだんちょう『ロゼリア』そのひとである。

 なるほど、騎士団長きしだんちょうみずからがヴォモスの進路上しんろじょうさらすことで勇敢ゆうかんさをしめし、騎士きし兵士へいし士気しきをあげようってわけだ。


悪辣あくらつなる魔物まものどもに! 人間にんげんの! わたくしたちのつよさをおもらせますわよ!』

『うおぉーっ!』

 赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん中心ちゅうしんに、ときこえがあがった。


 恐怖きょうふ雰囲気ふんいきが、多少たしょう緩和かんわされたか。

 でも、どれほどすご英雄えいゆうでも、一人ひとり一声ひとこえくつがえせるほど、つの異常性いじょうせい半端はんぱじゃない。あれは無理むりだ。


 もうもなく、ヴォモスがやり迎撃柵げいげきさく到達とうたつする。この巨体きょたいに、そんな小枝こえだくとおもったか?、とばかりに真正面ましょうめんからむつもりらしい。

魔将軍ましょうぐんりにわたくしたちに! つのごときが調子ちょうしって滑稽こっけいですこと!』

 ロゼリアがさらにあゆみ、長槍ながやりかまえる騎士きしたちにならぶ。


 さすがはのある大騎士団だいきしだん騎士団長きしだんちょうだ。よこならんで、勇壮ゆうそうなる姿すがたせて、さらに士気しきをあげる算段さんだんだ。指揮官しきかんにそこまでされて腰抜こしぬけは、この戦場せんじょうにはいまい。


『おーっほっほっほっほっほ!』

 上品じょうひん高笑たかわらいで、そこからさらに、ロゼリアがまえへとあゆる。やり迎撃柵げいげきさく中程なかほどまで、戦場せんじょう騎士きし兵士へいしだれよりもまえつ。

 あか金属籠手ガントレットには、たかどうサイズの円盾ラウンドシールドかまえる。あか金板プレートほこ大輪たいりん薔薇ばら造形ぞうけいした、ロゼリアを象徴しょうちょうする大盾おおたてである。


 ……いやいやいや。まえすぎだろ? 指揮官しきかん最前さいぜんちゃダメだろ?

 しかも、そこは、ヴォモスに最初さいしょかれるだろ? 士気しき最高潮さいこうちょうにしたいのかもれないけど、最初さいしょ姿すがたせちゃったら、士気しき統制とうせい総崩そうくずれだろ?


 オレも、周囲しゅういも、戸惑とまどザワつく。戸惑とまどっても、戸惑とまど以外いがいなにもできないけど。できても、もうおそいけど。


 ヴォモスが、あか騎士団長きしだんちょうへと、やり迎撃柵げいげきさくへと、猛烈もうれついきおいでんだ。ズッドォォォン!!!、と爆発ばくはつみたいな衝突音しょうとつおんみみつんざき、かわいた空気くうきがビリビリとふるえた。あふれた土煙つちけむりおおわれて、中央ちゅうおう様子ようすえなくなった。


   ◇


接敵せってきするぞ! 眼前がんぜんてき集中しゅうちゅうしろ!」

 動揺どうようころしたような号令ごうれいが、あちこちからあがった。

 魔物まものどもは、もうまえだ。すぐにでも、けんとど距離きょりだ。


 たしかに、いま中央ちゅうおうにしてる場合ばあいじゃない。すでに決定けっていしてしまった中央ちゅうおう結果けっかを、呆然ぼうぜん確認かくにんしてる場合ばあいじゃない。

 まえてき対処たいしょしなければ、中央ちゅうおう土煙つちけむりれるまえに、自分じぶんたちが魔物まものかれてしまう。


 でも! でも!

 まえてき対処たいしょできても、中央ちゅうおう友軍ゆうぐん壊滅かいめつしたらダメなんじゃないか? 友軍ゆうぐん敗走はいそうはじめたら、敵軍てきぐんがこっちに大挙たいきょしてせたら、そうなるまえにオレらも撤退てったいしないとヤバいんじゃないか?


 そんなたりまえのことは、みんなかってる。みんな動揺どうようしてる。意識いしきが、どうしても中央ちゅうおうへと分散ぶんさんしてしまう。

ひるむな! われらのつよさをしんじろ!」

 ゲシュペンスト騎士団きしだんも、魔物まもの集団しゅうだん交戦こうせんはいった。鋼刃こうじん獣爪けものづめ甲高かんだかおとが、砂埃すなぼこりじりはじめた。


 戦力せんりょくは、互角ごかくくらいか? 単純たんじゅんかずだけなら、騎士団こっちおおい。単体たんたいとしては、ひとつのでも魔物まものほう騎士きしよりつよい。

 多角たかくは、オレとおなじ『心剣士しんけんし』のリヒトが対処たいしょする。いざとなれば、オレも参戦さんせんできる。

 ゲシュペンスト騎士団きしだんは、かるほど練度れんどたかい。隊列たいれつととのい、足並あしなみはそろい、多少たしょう動揺どうようにも統制とうせいみだれない。


 それでも、動揺どうようはしてる。動揺どうようまよい、剣先けんさきにぶる。魔物まもの力任ちからまかせのみに気圧けおされ、ジリジリとさがる。

 ダメだ。どんなにつよ騎士団きしだんでも、戦局せんきょくがヤバくなればくずれるよな、そりゃそうだ。全体ぜんたい敗走はいそう一歩いっぽ手前てまえで、はしっこの自分じぶんたちだけ奮戦ふんせんはできないよな。


 ……あぁ、これは、ダメだ。


   ◇


笑止しょうしですわ!』

 本隊ほんたい中央ちゅうおうから、精悍せいかんおんなこえひびいた。


「……?!」

 ビックリして、オレはおもわず中央ちゅうおうへと視線しせんけた。

 騎士きし兵士へいしたちも、おどろいたかおで、中央ちゅうおうへと視線しせんけた。

 魔物まものどもですら、めて、中央ちゅうおうていた。


 平原へいげんに、かわいた突風とっぷうれる。中央ちゅうおう土煙つちけむりって、ヴォモスとの衝突しょうとつ結果けっかが、なつ日差ひざしにらしされる。


 ……あー、でも、あれだ。たいようなたくないような、複雑ふくざつ気分きぶんだ。

 最悪さいあく数百人すうひゃくにん轢死体れきしたい散乱さんらんする地獄絵図じごくえずがあるかもれない。そんなもの直視ちょくししちゃったら、正気しょうきたもてずに錯乱さくらんしてしまうかもれない。

 それならまだ、結果けっかずに敵前てきぜん逃亡とうぼうしたほう好手こうしゅか?


 と選択せんたくまよってるに、える。えるといえば、ずっとえてるヴォモスの巨体きょたいが、ずっとうごかずに、あのにある。

 ヴォモスの足先あしさきには、あかいパーツがドレスのようなデザインの金板鎧プレートメイルで、たかおんなが、あか金板プレートほこ大輪たいりん薔薇ばら造形ぞうけいした円盾ラウンドシールドで、ヴォモスの巨体きょたいめていた。


 ゾウの足先あしさき人形にんぎょうがある、みたいなサイズで。位置関係いちかんけいで。

 うそみたいな結果けっかだった。冗談じょうだんみたいな光景こうけいだった。CGと加工かこう合成ごうせいバリバリのBきゅう映画えいがワンシーンみたいだった。


『うおぉぉぉぉぉ!!!!!』

 騎士きし兵士へいしすべてが、一斉いっせい雄叫おたけんだ。人間の軍こっち士気しきが、あの光景こうけいひとつでねあがった。

 ぎゃくに、魔物の軍あっち動揺どうようまれた。


 なになんだか。意味不明いみふめいだが。このたたかいの勝敗しょうはいは、もしかしたら、けっした。



心剣士

第08話 EP02-03 赤薔薇レッドローズ/END

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