第一章: 5 三人の戦い


惣菜軍団は止まらなかった。

油を飛び散らせるコロッケ。

骨ごと突進してくる唐揚げ。

串を構えて走り回る焼き鳥兵。


「数が多すぎる!」

俺は卵を構えながら叫んだ。


「たかし、もう一発!」

ゆめが叫ぶ。


「わかってるけど……卵だぞ!?」

「卵でも効いたでしょ!」

「効いたけどさぁぁ!」


もうツッコミ入れてる暇なんてなかった。

コロッケが迫る。衣が割れて、中から油が飛び散る。


「うおおおおッ!」

俺は再び卵をぶん投げた。


パキン!

光が弾け、白身が鉄の鎖みたいに絡みついてコロッケを拘束する。

その隙に、ゆめが飛び込んだ。



---


「せいやぁぁッ!!」


ポニーテールが跳ね、彼女の蹴りがコロッケの中心を粉砕する。

衣が砕け散り、熱風がぶわっと吹き出した。

だが、彼女は顔をしかめながらも一歩も退かない。


「熱ッ……でも、まだいける!」


「くぅぅ……お前ほんとタフだな!」

俺は驚きながらも、背中がゾワッと震える。

……かっこいい。

いや、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ!



---


後方から焼き鳥兵が串を振りかざして突っ込んできた。

「来るぞ!」

ゆうじが叫ぶ。


彼は素早く床に散らばった買い物袋からラップの芯をつかみ取った。

それを即席のバトンみたいに構える。


「串は木製! 燃えやすい!」

彼がそう叫んだ瞬間、床にこぼれていた油にラップ芯を突っ込む。

パッと炎が走った。


「今だ!」


彼の炎のバトンが焼き鳥兵を薙ぎ払う。

串が燃え、肉が弾け飛んだ。


「ナイスゥ!」

俺は思わずガッツポーズ。



---


でも、敵はまだいる。

唐揚げ兵団がこちらに突進してくる。

衣がガリガリと硬化し、まるで鎧みたいだった。


「硬すぎる……!」

ゆめの拳がぶつかるたび、衝撃で腕が赤く染まる。

「無理に殴るな!」

俺は叫ぶ。


「じゃあどうすんだ!」

「えっと……卵で、たぶん、スコーし柔らかくなる……かも!?」


「不確定すぎ!」

ゆめのツッコミが飛んできた。


だが、もうやるしかない。

俺は残りの卵を振りかぶった。



---


「いけえええッ!!」

卵が唐揚げの鎧に直撃。


パキィン!

光が弾け、衣の表面が一瞬だけやわらかくなった。

じゅわっと油が染み出す。


「今だぁぁ!」

ゆめが全力で拳を叩き込む。


ドゴォォン!


唐揚げの鎧が粉砕し、油煙をまき散らして崩れ落ちた。



---


「……勝った……のか?」

俺は肩で息をしながら呟いた。


静寂。

油と肉汁の匂いが漂う中、立っているのは俺たち三人だけだった。


「はぁ……はぁ……なんとかなったな」

ゆうじがラップの芯を床に落とす。

燃え尽きて黒焦げになっていた。


「卵に……格闘に……即席火炎放射……」

俺は荒い息を吐きながら笑う。

「俺たち、案外やれるんじゃね?」


「バカ、笑ってる場合か」

ゆめが呆れながらも、口元は少しだけ緩んでいた。



---


そのとき。

視界にまた青白いウィンドウが浮かんだ。


【ステータス解放】

【??? の項目が追加されました】

【ポイントを使用しますか?】


「……なんだよこれ……」

俺は顔をしかめる。


たった今、必死に戦ったばかりなのに。

まるで次の地獄を用意してるみたいに、システムは平然と告げてきた。


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