第一章: 4 惣菜の怪物


照明が落ちた暗闇の中、俺たちは固まっていた。

青白いパネルが視界に浮かんだまま消えない。


【プレイヤー登録完了】

【商品使用権:解放】


意味不明すぎる文字列に、頭が追いつかない。


「な、なあ……なんだこれ……?」

俺は半笑いでつぶやいた。

でも、笑ってるのは口だけで、背筋は冷えきっていた。


「わ、私、見てない! 見なかったことに……!」

客の一人がパネルを振り払うみたいに頭を振った。

だが、次の瞬間——


グジュゥゥ……!


耳障りな音が店内に響いた。



---


総菜コーナー。

ガラスケースの中に並んでいた揚げ物が……動いた。


コロッケがむくりと立ち上がる。

衣の表面がベリベリと裂け、中から熱々の油が滴る。

メンチカツは真っ赤に光るひき肉の瞳をぎょろりと動かし、ガラスを突き破った。


「う、うそだろ……!?」


さらに、焼き鳥の串がカタカタ震えながら宙を舞う。

竹串が牙みたいに並び、肉がギチギチと音を立てながら合体し——人型の怪物になった。


客たちの悲鳴がスーパー中に響き渡った。



---


「走れぇぇ!!」

誰かが叫ぶ。


だが、通路は逃げる人でごった返していた。

その中へ、総菜軍団が突っ込む。


ジュワッ!

コロッケの体から飛び散った油が、人の服に燃えるような痕をつける。

ギャアア!と叫び声。

焼き鳥人形の竹串が突き刺さり、血が飛んだ。


「や、やばいやばいやばい!」

俺は目を見開いた。


「たかし! 下がって!」

ゆめが俺の腕を引っ張る。



---


そのとき。


カゴに入れていた卵パックが光った。


「……え?」


パネルが再び浮かび上がる。


【商品使用:解放】

【たかしの卵:装備しますか?】


「はぁぁ!? 卵!? なんで俺限定!?」


戸惑う俺の手に、パックごと卵が吸い込まれるように収まった。

重さが変わった。

普通の卵なのに、まるで拳大の石みたいにズシリとした感覚。



---


「おい、マジかよ……」

「たかし、それ……武器にしろってこと!?」

ゆうじが半笑いで言う。


「卵でどう戦えってんだよ!!」

叫んだ瞬間、メンチカツが突進してきた。

衣がバリバリ剥がれ、湯気が噴き出す。

熱風が顔に当たり、皮膚がヒリついた。


「うおおおおおッ!!」

俺はヤケクソで卵をぶん投げた。


パキィィン!


直撃した瞬間、卵が眩い光を放ち、殻が砕ける。

飛び散った黄身と白身が、鋼みたいに硬化して怪物を押し潰した。


「え……当たった!?」

「マジで効いてる……!?」


メンチカツの体がビチャッと崩れ落ち、床に広がる肉汁の池と化した。



---


「たかし……!」

ゆめが驚き混じりに俺を見る。


「お、おれ……やっちまった……?」


一瞬だけ静寂。

でもすぐに、残りの惣菜たちがギラリと目を光らせた。


「まだ来るぞ!」

ゆうじが叫ぶ。


コロッケ兵団が油を飛び散らせながら突進してくる。

唐揚げがカタカタ音を立てて這い寄ってくる。


俺の手には、残りの卵が震えるように収まっていた。


——戦わなきゃ、死ぬ。


腹の底から、嫌でもそう理解させられた。


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