薔薇と鉛筆
@UBOB
薔薇と鉛筆
今日も鉛筆はため息と共に仕事を終え、少女の手を離れ、カランと音をたててペン皿に横たわった。
「俺は、本当なら艶やかな真っ黒な生き生きと線を描く事が出来る。
なのに、あの小娘の手でうっすらとした読みにくい線でひょろひょろとした不格好な文字や数字を書かされる。
ああ、なんて詰まらない毎日だ」
部屋の明かりが消え、教科書やノートや消しゴムたちとそれぞれに持ち主の少女への愚痴をこぼしながら夜は更けていった。
そんなある日、鉛筆達の世界に小さな変化が訪れた。机の上の小さな瓶に生けられた一輪の深紅の薔薇が仲間に加わったのだ。
初めてその姿を見た鉛筆は深い感銘を覚えた。柔らかくたおやかな花弁は神秘の重なりとなり、いやが上にも薔薇を美しく、更には鋭い棘も汚れなき高貴さの表れのようにすら思えた。
少女が不意に鉛筆を手にし、何気なく鉛筆の先で薔薇の花をちょんちょんとつつく。
自らの頭の先が薔薇のなめらかなビロードの様に輝く花びらに触れ、圧倒的なまでに濃厚な甘い香り包まれた時、鉛筆は一瞬にして薔薇に恋をした、薔薇の虜になったのだ。
少女は一枚の画用紙を取り出すと目を凝らしてバラを見つめ、鉛筆を取り上げるとうっすらとした線を画用紙に走らせ始めた。 そう、薔薇の絵を描き始めたのだ。
かすかな線であたりをつけ、次第に細部を描きこんでいく。鉛筆の先が滑るように薔薇の輪郭を描き、線が重なるたびに花びらの重なりが浮き上がってくる。
面白いように鉛筆の先が滑らかな線を描き、影の面を艶やかに塗り込んでいく。
しばしの集中ののち、少女はふうっと息を吐く。
すっかり芯の先がちびて短くなった鉛筆は少女の手を離れ、満足そうなコトリとした音を立ててペン皿に倒れこんだ。
「完成、奇跡みたい、あたし天才かも…」
薔薇と鉛筆 @UBOB
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