第32話--距離とすれ違いの冬日--
朝、教室の入り口で凛とすれ違った瞬間の冷たい言葉が、
私の胸の中でまだくすぶっていた。
「そうです。」
その一言は、無機質で、凛らしいと言えば凛らしい冷たさを帯びていた。
だけど私には、まるで距離の壁を突きつけられたように感じられた。
昨日まで感じていた、年越しを共にした温かさや安心感は、あの一言で揺らぎ、
胸の奥に小さな穴を開けたようだった。
私は席に座り、ノートを開いたものの、文字が頭に入らない。
周囲の友達、望月 結や小野寺 翠が楽しそうに話している声も、
今日はどこか遠くで響くようだった。
「冬休み明けてから、彩どこか変だよね?」
「そうそう、凛ちゃんのあの言葉の時から、何かあるのかな」
友達の声が耳に入るたび、私の心はざわついた。
首に触れる手が無意識にネックレスに触れ、その冷たい金属の感触が、
より一層胸を締めつけた。
授業が終わり、放課後。
私は足取りも重く、いつも通りの帰り道を歩きながら、凛の冷たい言葉を反芻していた。
「私、なんであんなに素っ気なく言われたんだろう……」
胸の奥で繰り返す問いは、答えを見つけられずにますます重くなる。
道を曲がると、小さな本屋の前に差し掛かった。
参考書を少し見ようと思い、店内へ足を踏み入れる。
棚の前に立ち、教科ごとに並ぶ本を手に取りながらも、
頭の中では凛のことが渦巻いていた。
「あの時の冷たい言葉……私は凛に嫌われたのかな」
思い切って声をかけようかと思いながら振り向くと、そこには偶然、凛が立っていた。
私は心臓が跳ねる。
声をかけようか、でも今は無理……と口に出せず、
ただ視線を落としたまま棚の本を手に取る。
手にした参考書をレジへ持っていき、精算する。
私は何とか平静を装い、家へ向かって歩き出した。
帰り道、冬の風が顔を冷たく打つ。
家に着くと、部屋の暖かさが心の隙間をほんの少しだけ埋める。
だが、胸の奥にはまだ、あの冷たい朝の凛の言葉が影を落としていた。
――凛は今、私のことをどう思っているんだろう。
一方、凛も彩のことを気にしていた。
本屋の前で姿を見かけた時、声をかけてほしいとわずかに期待した自分がいた。
けれど彩は来なかった。
その瞬間、私は自分が朝に放った冷たい言葉を思い返す。
「私のせいで、彩との距離が少し開いたんだ……」
胸がきしむように痛み、どうして自分はあんな言い方をしてしまったのだろうと、
辛くなる。
私はそっと息をつき、冷たい冬の空を見上げる。
彩の背中が視界から消えたことを確認しながら、胸の奥で小さく呟く。
――彩、ごめん……
冬の夕日が教室や街を橙色に染める中、彩と凛、それぞれの胸の中で、
距離とすれ違いの痛みが静かに波打っていた。
そしてその夜、二人の心に残るのは、まだ言葉にできない感情のもどかしさだけだった。
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