第33話--モヤモヤを抱え三年生へ--
冬休みが明け、教室には冷たい光が差し込み、静かな空気が校舎を包んでいた。
私は少し緊張しながら凛と一緒の教室に入る。年末に共に過ごした特別な時間がまだ胸に
残っているのに、凛の態度はいつも通りで冷たく、私の心に微妙な距離を感じさせた。
「……そうです。」
凛の短い言葉は、無機質で冷たさを帯びていた。
私の胸の奥で、感じていた温かさはふわりと遠くに消え、
胸に小さな穴を開けられたような感覚が残る。
私は自分の胸の奥にある気持ちを整理しようと試みた。
「凛と一緒にいたい……でも、今は……」
心の中で葛藤するものの、結や翠との日常のやり取りや授業、部活動の些細な出来事に気を紛らわせる日々。
しかし、ふとした瞬間に凛の顔や冷たい言葉がよぎり、胸の奥がざわつくのを感じる。
登校中、望月 結や小野寺 翠とすれ違うと、自然と会話に入り、笑顔を取り戻している
自分に気づく。
「彩、なんか元に戻った?」
結が微笑みながら言った。
「前の彩って感じ!」
翠も頷きながら言葉を重ねる。
私は思わず「何それ」と微笑んだ。
胸の奥にまだ凛の存在はあるけれど、友人たちとの日常に触れることで心の重みは
少しずつ和らいでいく。
「まあ、私たちはどっちの彩も好きだけど!」
結が笑い、翠も「悩んだりしてる顔見ると心配だし、相談とかたくさん乗るからね!」と
肩を軽く叩く。
私はその言葉に、温かさをじんわりと感じた。
数週間、そして数か月が過ぎ、私も凛も友人たちも学年が上がり、高校三年生となった。
春が訪れ、校庭の桜が舞い散り、夏が近づく頃には教室の空気も少しずつ変わっていった。
変わらない日常の中で、二人の距離は相変わらずで、私の心の中に残る微かな不安は消えることがなかった。
凛もまた、彩の存在に無意識に気づいていた。
けれど、あの冬休み明けに自分が放った冷たい言葉のせいで、彩が近づいてこないことを
どこか寂しく感じていた。
目の前の彩を見たい、声をかけたい――そんな思いがありながらも、私はそれを口に
出せず、ただ心の奥で静かに待ち続けるしかなかった。
二人の間に生まれた距離は、目に見える形ではなく、
静かに日常に溶け込む形で存在していた。
教室の笑い声や廊下のざわめき、友人たちの何気ない会話の中で、私は凛を思い出し、
凛もまた彩を意識している。
しかし、互いに距離を埋める言葉はまだなく、二人はそれぞれの胸の中で思いを
抱えながら、高校三年生の春を迎えたのだった。
放課後、私は結や翠と一緒に帰る道すがら、少し心が軽くなったのを感じる。
日常に戻った自分の姿に、友人たちは微笑みながら声をかける。
私はその声に自然と笑みを返し、凛との距離はあっても、友達と過ごす時間に安心感を
覚えた。
――まだ凛とは距離がある。だけど、私はこうして日常の中で笑える自分も大切にしたい。
彩の胸の奥には、微かな不安とともに、少しずつ前向きな気持ちが芽生えていた。
そして春の陽光に照らされながら、二人の高校生活は静かに、確実に進んでいくのだった。
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