宣戦布告
迂闊に魔法を使って語りかけてくれたおかげで相手の位置が丸わかりだ。
恐らく逆探知などされないと高をくくっていたのだろう。
「よっと」
【ぐがっ!?】
僕はただ魔力を伸ばし、こちらへと声を投げかけてきている存在を捕縛する。
「転移!」
そして、そのまま向こうを転移でこちらの方へと引きずり出す。
「なっ!?」
転移でこちらへと引きずり出されてきた人物は驚愕の表情を浮かべながら地面に転がる。
「何奴ッ!?」
赤い肌に額に翡翠の結晶。
まぁ、地球にはいないであろう特徴を持った男性がこちらに向かって叫ぶ。
「……人間?亜人族ではない、のか」
「それ以外に居ないでしょ」
遥か遠くにいる相手を魔力で捕捉し、そのまま相手に魔法をかける。
異世界だとよく見られる方法だ。
だが、現実世界だと見られない。異世界で見る術を使った僕のことを相手は自分と同じ異世界の亜人であると思ったのだろう……いや、別に異世界にも人種はいたけどね?
異世界が今、どうなっているのか。知りたいところだね。
「それで?貴方は何者?化け物さん」
まぁ、でも、今はとりあえず目の前の相手の対処をしよう。
今の様子もきっと、世界中に放送されているのだろう。
それ相応の態度は見せなくては。
「……っ」
「誰が答えるものか。人間目」
「あら、手痛い」
答えてもらわなくとも、僕は知っているが。
赤宝族。
異世界に居た亜人の一種であり、かつて、僕と共に魔王と戦った存在だ。
「……それにしても、ずいぶんと弱そうなことで」
ラッキーがひとつ。
弱体化しているのは僕だけじゃない。向こうも弱体化している様子だった。
感じる魔力量そのものが明らかに少ない。弱体化のほどは僕よりも酷いかもしれない。僕は魔法であったり、加護であったりが使えなくなったりと手札が減った形であるが、向こうさんはどうやら身体スペックそのものが落ちている模様。
とはいえ、向こうは僕が使えない魔法や
というか、魔法をフルに使えるのは間違いないだろう。異世界人が魔法もなしに電子戦で土御門さんを負かせたとは考えられない。
土御門さんは魔法だけではなく、実際の技術もある。何処相手どっても電子戦で負けなしの土御門さんは伊達じゃない。
そんな土御門さんを異世界人は圧倒的な魔法で叩きのめしたのだろう。
「反応できんの?」
あぁ、だが、悲しいかな。
魔法が使えたとて、一番大事なのは身体出力だ。
魔王と頂上決戦を繰り広げた僕だからこそわかる。手札の数よりも、肉体の質が高い方が勝つ。それが覆ることはまぁ、ない。
「ぐぼっ!?」
地を蹴り、加速。
一瞬で赤宝族の男との距離を詰めた僕は相手の腕を掴み、そのまま顔面に蹴りを叩き込む。
「あぁぁぁぁぁああ゛ぁああ゛あああぁあ゛あああぁぁぁあああ゛あああああ」
僕の蹴りを食らった赤宝族の男は遥か遠くへと吹き飛ばされていく。
「がりがりだな。筋肉が全然ないじゃないか」
その際、僕の手が掴んでいた赤宝族の男の手はそのまま。両腕が肩から引きちぎられてた赤宝族の男は地面を転がって苦悶の表情を浮かべる。
「殺すのは存外容易いですね。とはいえ、貴方を生け捕りに出来る気もしません。既に逃亡を防ぐ結界は張りめぐらせています。このまま、とことんやりましょうか」
「……くっ!何者だっ!貴様!明らかに、明らかにこの世界の魔法少女のレベルを逸脱している!」
「人間から逸脱している見た目のくせして、そんなこと言ってくるなよ。お前は魔物なん?人なん?どっちやねん」
「魔物、風情と一緒にするな」
「ん?」
「あれらは俺たちの実験動物に過ぎない。お前らは俺たちの作った失敗作を相手に苦戦しているのだ」
「ずいぶんと上から口を開いてけど、自分の状況見てみ?」
「大した、問題ではない。この世界は我々が支配する。ハハッ、一週間後だ。我々は行動を開始する。お前たちに対し、審判を下すのだ」
「……何それ?宣戦布告?」
「あぁ!そうだとも、人類よ聞け!我々は一週間後、この世界を征服し、支配する。ひれ伏せこの世界の人類ども。終わりなき恐怖に苦しむと良い」
何だよ……まったく。
僕が救ってあげた世界の人間が、僕の生まれた世界に対して魔王と同じムーブを取ってきているんだけど。色々と許せないし、信じられないよね。
「心外だね。今の転がっている君から言われるのは」
「ほざけ、ただ一人……少し、強いだけの男が」
僕の言葉に対し、赤宝族の男は言葉を吐き捨て、そのまま口をもごつかせる。
「ぐふっ……」
「ちっ」
奥歯か何かに毒薬でも仕込んでいたのか。
口をもごつかせた後、赤宝族の男は口から血を吐いて倒れる。生命反応はもうない……死んだか。
「……はぁー、この場はこれで終わりか」
それにしても、赤宝族は僕のことを舐めすぎだよね。
ただ一人。圧倒的な力を持っていた魔王の力によって世界を征服しかけられ、そして、僕という圧倒的な力を持っていた勇者の力でその魔王軍を押し返した歴史を持っているだろうに。
よくもまぁ、ただ一人の力を侮れるものだ。
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