異世界

 最悪の、さらに最悪の事態と言えるのではないだろうか?

 これはちょっと予想外だった。

 

『嘘でしょ?』


 今の様子がすべて配信されていた。

 それはあまりにも驚くべき内容だった……うん。周りを見なよ。死屍累々の地獄だ。これを全国放送は不味いでしょ。

 後、これまで表向きはクリーンなイメージをお届けしていた魔法少女と魔法少女が戦っている絵面そのものが不味いね。普通に大問題だ。


『本当よ……まさか、私がしくじるなんてっ。ごめんなさい。確実に私のミスだわ』


『すべて完全に垂れ流されちゃった感じ?』


『……えぇ、そうよ。貴方たちの暴れっぷりも、会話の内容も、全部垂れ流しになっているわ。ネットはどんちゃん騒ぎ。私の力を使っても完全な鎮静化は無理。下手に弄る方が駄目ね……ほんと、ごめんなさい』


『いやいや……まぁ、そうなる時もいずれ、来るでしょうから』


 いくら魔法があったとしても、やっぱり完璧はない……うーん、何というか、迂闊だったかもなぁ。こう、戦闘しているときって何か僕の中で思考が異世界の方に飛んで行っちゃって、現代風の世界に適応しきれていない感じもあるんだよね。

 

「お前、ここの様子配信していたんだってね?」


 ここで悔やんでも仕方ない。

 とりあえず、僕は再び話を遠崎さんの方に振る。


「遠崎さんも、中々の名家の生まれ……ここで完全に顔が割れて、ここから先大丈夫なんでしょうかね?家族の方にも迷惑がかかる気がしていますが」


「……えっ?」


「……やっぱ知らなかったか。こりゃ、完全に捨て駒だな」


「……っ」


 一応の当たりを掴みはしたが、その当たりが外れだったな。

 敵はこっちの自由の女神よりももう一つの組織の方っぽいな、これは。


「嵌められている……というか、なんかもう乗っ取られかけてて脅されているんじゃない?これ以上、味方するつもりはないでしょう?出来る限りでいい。僕に情報教えてよ。ただ、首を振るだけでもいいから」


「……」


 遠崎さんはがっくし項垂れ、もう抵抗する気も失せている。

 こちらの事情聴取には応じてくれているだろう。


「まず、敵は魔法少女ですか?」


「……」


 初手の質問に遠崎さんは首を横に振る。


「敵はヤクザやマフィアなどの犯罪組織ですか?」


「何処かの国のスパイですか?」


「企業等ですか?」


 矢継ぎ早に告げていった僕の質問のすべてに遠崎さんは首を横に振ってこたえた。


「……ありゃ?」


 どういうことだ。

 今いった質問のどれもに当てはまらないとか流石に意味がわからない。


「……もしかして、この世界の存在じゃない?」


「……ッ!?」


 ふと、漏らした僕の言葉に対し、遠崎さんは驚愕の表情を浮かべると共にその首を縦に振った。


「……わぁ」


 何ということで、ここに来て僕が行った異世界の人間がこちらの世界に逆侵攻仕掛けてきている可能性が出てきてしまった。これは、……流石にこれはちょっと想定外。

 いや、……違うな。

 石のゴーレムが出てきたあの樹木に覆われた部屋。

 あの、樹木を見た時に僕は既視感を覚えたではないか───あれは、異世界の植物だ。


「人?」


「……」


 僕の質問に遠崎さんは首を縦に振る。

 人か。魔物とかではないか。いや、そもそもとして異世界と言っても僕が行った異世界と同じかどうか怪しいところもあるからな。

 事実、侵食型の魔物とかは異世界にいなかった。


「耳が長かったり、背中から翼が生えていたりする?」


 こういうことをしそうな……異世界の種族か。

 あの魔王が率いていた魔族、はしなさそうだな。うーん……あいつらか?


「……ふむ。ねぇ、そいつら、肌の色が赤だったりしない?」

 

 思いついた候補。

 こういうことをしそうな過激思想を持ち、何なら種族全体でマッドサイエンティストの気質を持ち、新しい生命の種族の誕生を目標に掲げていたイカレ狂っている種族を頭に思い浮かべて口を開く。


「なっ!?なんであいつらの肌が赤であることまで!?」


 その、僕の言葉に対して遠崎さんは驚きの声を響かせる。


「あっ、口に出していいの?」


「……あっ」


 僕の言葉にサーっと遠崎さんがその表情を真っ青に変える。

 どうやら、致命的な反応をしてしまったみたいだ。



【……何を、勝手に話している?】



 その、次の瞬間。

 この場にくぐもった声が響いてくる。


「ひっ!?」


「……何?この声?」


「ち、違うのですっ!わ、私は……!私は!私は裏切るつもりなんて!ですから、どうかっ!……どうか!みんなを殺すのだけはっ!」


【もう用済みだ。全員で、消えると良い】


 僕が困惑している間にも事態は急速に進みつつあった。

 遠崎さんは涙を流しながら命乞いの言葉を口にし、その言葉を拒絶するくぐもった言葉が響く。


「……ぁっ」


 その、次の瞬間には膨大な魔力反応があった。


「上位存在気取っているんじゃねぇよ、アホ」


 感じた魔力反応。

 その魔力より発動しかけてきた魔法へと僕は干渉し、捻りつぶす。事態は何となくつかめた。声が響いてくれたおかげで、随分とやりやすくなった。こちらの行動方針の決定が簡単になった。


【……何?】


「また、僕の上司と連絡が取れなくなっている。情報戦でまたうちの上司は負けてしまったらしい。ったく、世界に配信なんかして、何を狙っているのやら」


 あいつら、随分とこちらの世界を舐めているみたいだ。

 こうも無様に、こうも無警戒にあんな形で魔法を発動させようとするとは。


「後悔しろ。まずは、引きずり落としてやる」

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