石のゴーレム
「煩わしいねっ！本当にッ！」
石のゴーレムがこっちの世界に出てきてしまったことで崩れ行くビル。
そこから逃れる僕は魔法で己の衣装を変えて地上に降り立つ。
「ハァー」
「ちょ～いッ！ため息吐いていないで、私を助けろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお！」
「……一応ちゃんと助けるか」
どうせ再生するのだ。
このまま放置でもいいが……うん。流石に可哀想か。再生すると言っても痛みがないわけではないだろうしな。僕は刀を振るい、石のゴーレムの片腕を斬り落とす。
「おわっ！？」
「それほど、それほど硬いわけでもなさそうだな」
ただ離れたところから刀を振るい、飛ばしただけの斬撃でも片腕を斬り落とさせた。
相手の硬さはそう大したものじゃない。
「オォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ！」
その上、再生能力も特にない様子。
僕に遅れて地面に降り立ち、こちらへとゆっくりその残された大きな腕を振り下ろしてくる石のゴーレムを呑気に眺める。
「デカさだけが売りだな、こりゃ」
速度もイマイチだ。
「とはいえ、そう相手を無視するわけにもいかないのだが」
デカいだけだが……そのデカさが問題だ。
「きゃぁぁあああああああああああああああああああ！？魔物よぉ！？」
「で、でけぇ！？嘘だろ！」
「あ、あれは……あれは、……ノーネームだっ！第三課だ！」
ここには一般人もいる。
元勇者としてはそう、周りに被害を振りまきたいものではない。振りまいたりなんてしたら、第三課の名声にも関わるしな。
ただでさえ低い名声を何とか僕を使うことで何とか底上げしようとしているところなのに、僕が無様を晒したりなんかしたらもう致命的だ。
「時雨一刀流、破獄ッ！」
自分へと振り下ろされる石のゴーレムの腕。
それを刀一つで叩き割る。
力押しも力押し───刀を教えてくれたお爺様は嫌っていた業だが、一番取り回しやすい。ただ一番力を伝えやすい方法で、力いっぱい刀を振るだけの技。
その、力押しの一発は今の僕が振るえば一撃必殺のバグ技と化す。
「時雨一刀流、千本桜」
バラバラに砕け散った数多の腕の残骸。
それを僕は刀ですべて斬り捨てていく。
「お、おぉ……マジかよ、あいつ。あんな強いの？」
「そんな強いんですよ」
その後、僕は未だ斬り落とされたゴーレムの腕の手のひらにすっぽりと収まっている真紀さんへと声をかける。
「大丈夫ですか？」
「お、おい！？まだ石のゴーレムはいるんだから、私をよりも気にするよりも先にッ！？」
「あぁ、一緒に体も斬り捨てました。再生能力もないようですし、あれで終わりでしょう」
「……は？」
焦らなくともいい。
既に倒した後だ。
ゆっくりと、僕の背後で落ちていく石のゴーレムの頭。その頭は完全に地面へと落ちる前に灰となって天に昇り、そのまま体も一緒に灰へと変わって消えていく。
「うっそだろっ」
「千の斬撃を一度に叩き込もうって技ですから。あの破片だけではなく、ゴーレムそのものだって余裕で吹き飛ばしてみせるさ」
「私の後輩強すぎんだろっ」
「えっへん」
伊達に勇者として活躍していないからね。最強も最強である自信があるよ。
「……他の人間が執着するのも納得の強さだわぁ。隠す必要がないのにも頷ける。魔法少女の為にでも生まれてきたかのようだ」
「……この格好だけは気に入らないんですけどね？全然、魔法少女になんてなりたくないです」
「アハハ！似合ってんぞ！」
「うるさい。帰りますよ。あまり目立ちたくないです。見られたくないので」
「おうよ。それは私も同じこと。行こか」
「はい」
あまり目立ちたくない第三課は華麗にこの場を退散するのだった。
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