会社

「やぁっ、久しぶり」


 公安魔法少女第三課の事務所を後にした僕は東京にそびえたつ高層ビルの最上階へと不法侵入していた。


「……!?れ、蓮夜様!?と、というか一体何処から!?」

 

 僕が侵入した高層ビルの最上階にいるのは一人の女性。

 彼女はかつて、ホストに嵌まって全財産を失い、かといって体を売るようなことはできない半端者であったが為に歌舞伎町の裏道でぼろ雑巾のように転がっていたところを僕が拾った観見静江だ。


「調子よさそうだね。ニュースで見ていたけど、業績は好調。順調に稼いでいるみたい」


 このビルは僕が小学生の時に作ったVtuber事務所が拡大に拡大を重ねて出来た会社の本社だ。

 Vtuber事務所から始まって飲食店、アパレル、出版、アニメ、イベント、生産AIとどんどん業績を拡大。ついにはお父さんの家電メーカーと協力して、事務所に属しているVtuberを模して作ったAIが各種サポートをしてくれるスマホを販売して国産スマホとしては異例の売り上げを叩きだしたり。

 今、最もイケイケな企業だ。

 そろそろ僕とお父さんの会社で日本のGDPの一割を占めそうな勢いだ。


「最近、野球のチームを買収したんでしょ?僕がいなくとも順調に業績を拡大していっているようだね。立案者として誇らしいよ」


「……急にいなくなった貴方が、私に残してくれた会社です。潰せるわけがありません」


「頼もしい言葉だね。君を僕の腹心に選んでよかった」


 事業を起こそうと奮起した僕は当時小学生。

 いくら何でも小学生が起業しようと動いても周りから理解を得られるわけがなく、自分の代わりに社長となってくれる人を探した果てに見つけたのが静江だ。

 元々、静江は有名大学を出てお父さんの会社に入社したエリートだった。

 その静江が金がらみで辞めたことを盗み見し、それらの情報から彼女をスカウトしたのだ。


「それと、勝手に一年いなくなったごめんね。そのせいで一か月に一回抱きしめてあげるという契約を履行できなかったや」


「……別に、今もまだそれを求めるほど私は人肌に飢えていないですよ」


「なら、良かった。それじゃあ、もうハグは良いかな?」


 流石にもう静江も二十代後半。

 もう大丈夫か。

 からかうように僕は両手を広げながら、前のようにハグはいらないよね?と確認する。


「……します」


「ありゃ?」


 だが、静江はするつもりもあまりなかった僕の腕にすっぽりと収まり、首をかしげる。


「いたたっ!?締め上げようとしないで!?」


 その、次の瞬間には力いっぱい締め上げてきた静江に悲鳴をあげる。


「……既に帰ってきていることは美鈴さんから聞いていました」


「あっ、そうだったんだ」


「何故、私のところに真っ先に戻らなかったのですか?」


「いや、それもよぎったんだけどね?よくよく考えてみれば、僕ってばこの会社に何の立場も持っていないじゃん?所属のVtuberとして、莫大な給料を持っているだけの人間……知らない人扱いされるかも?とか思って。別に今更もう僕いらないじゃん?」


 企業しようと発案し、色々と歯車を回してきたのは僕だが、軌道に乗ってきた最近はただVtuberとしてごくたまに配信するだけの人になっていた。

 お父さんの会社との取引も僕が子供の立場として突撃し、プレゼンで価値を認めさせて、というやり方ではなく普通にお堅い企業同士のやり取りとなっている。

 僕はもう結構いらない子。その上で社長クラスの金を僕に振り込ませていたからね。邪魔者として弾かれてもおかしくない……そんな危惧も持っていたのだ。


「……はっ?」


「色々どうしようか悩んでいたところで、ちょうど新しい就職先を見つけてね。そこに収まった感じだね」


「……ァ?今、あなた別のところで働いているの?」


「ん?そうだよ。一年失踪して、高校も退学させられて。持っていたお金も基本的には科学技術の発展の為の開発費としてほぼすべてを寄付して特に財産が残っているわけでもない───肩書がまともに活動していないVtuberしかなかった僕を雇ってくれた良きところだよ」


「はぁぁぁぁ!?貴方は、うちの企業の、社長なのですがっ!?」


「いや、社長は静江でしょ。ふふんっ。新しい職場も気に入っているんだよ。僕しかできないからね」


 異世界で世界を救った勇者としての実力を持っているのだ。

 僕が最も価値をこの世界にもたらせる場所は魔法少女だ───女装をしなきゃいけないのが唯一、許せないポイントだけど。


「それでさ、静江にちょっと頼みたいことがあるんだけど……」


「蓮夜ッ!貴方、以前勝手に帰ったわねっ!」


「……えっ?美鈴?何でここに?」


 静江に頼みごとをしようとしたところで入ってきた美鈴の姿を見て僕は驚愕する。


「どうせ、何時かはここに来ると思ってね!静江さんに来た段階で私の方に連絡してもらうことになっていたのよ!たまたま、ここの近くを歩いていたのは幸運だったわね」


「えぇ……?何でぇ?」


 何時からそこに横のつながりが出来たんだ……全然知らなかったぞ。

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