冷蔵庫

「あ~、疲れた!」


「本当、疲れたわぁ」


 侵食型の魔物を早見さんが片付けた後、僕たちは二人で昼食としてパスタを食べに行った。

 そこまでは良かった。

 ただ、ちょうど食べ終わった段階で新しい緊急の仕事が入ったせいで帰ることは出来ずにそちらへ。それが五件も続き、帰ってくるのは夜遅くだった。


「というか、帰ってくるのさえも久しぶりっ」


 そんな多忙な日々は何も、今日この日ばかりじゃない。

 というか、今日はちょっとマシな日だった。なんて言ったってちゃんと帰ってこれているからね。うん……いや、本当にこれでちゃんとマシなのだ。普段はもう帰って来れない。

 既に僕が現実世界に帰って来て一週間……早見さんとのドキドキ同棲生活が始まるかと思っていたのに一切それは始まらなかった。

 もう二人でずっと仕事。決して終わることのない仕事に追われて今だ。

 本当に魔物としか戦っていない。何でこんなことになっているのか……こんなにもブラックな職場だとは思っていなかった。


「はぁ……もう寝」


「んっ、一旦お風呂沸かすね。お風呂洗うスポンジ何処にある?」


「えっ……え、えっと、何処にあったかしら?」


「帰ってくるの久しぶりだし、出てこないか。自分の魔法で綺麗にしてきますね」


「わ、わかったわ……魔法?」


 いや、魔法ってば便利だね。清掃の魔法を使えばスポンジで擦らずとも風呂桶を綺麗にすることが出来る。というか、最初からそれでよかったな。いちいちスポンジあるかどうか聞く必要なんてなかったんだ。


「ふんふんふーん」


 僕は鼻歌を歌いながら風呂桶を魔法で綺麗にしていく。

 終わるのは一瞬だ。

 魔法だからね。


「お風呂洗ってきました。今から夕食作りますね」


「う、うん」


 ソファに腰掛けていた早見さんに声をかけながら冷蔵庫を開ける。


「何があるかなぁ」


 何気にこの家の冷蔵庫を開けるの初めてかも。

 そんなことを考えながら冷蔵庫の中のものを物色していく。


「えっ……?」


 冷蔵庫に置かれている食品の数々。

 その賞味期限を確認し、絶句する。そのどれもが期限切れだった。


「待って?本当に全部賞味期限きれているじゃん。うわっ、これに至っては半年近く経っているよ……早見さーーん!この賞味期限きれているやつ、捨てていいよね!」


 僕はたくさんの賞味期限切れの食品を手に抱えながら早見さんへと捨てる許可を得る。


「えっ?あっ、うん……お願い」


「はーい」


 迷うことなく僕は大量の食品を捨てていく。もったいないけど仕方ない。


「うわっ……」


 このどら焼きに関しては

 その上、生クリームのやつじゃん。腐っているでしょ……。


「見て、早見さん。このどら焼き、生クリームの商品なのに1年も賞味期限過ぎているんだけど。透明な包装紙だったら地獄を見るところだったよ」


「はぐっ!?」


 急に僕から視線を向けられた早見さんはびっくりして何かを詰まらせたかのような反応を見せる。


「何か食べている?」


「……もぐもぐ」


「賞味期限きれているの多いから気を付けてね?仕事が忙しくて放置されていたのでしょう」


「う、うん……ちゃんと食べる前には確認したから……」


「なら、安心だね」


 本当は自分が食べるものだけじゃなくて全体の確認もして欲しいところだけど。


「とりあえず何か作るか」


 食材を整理し終えた僕は改めて冷蔵庫の中を確認する。

 

「……作れそうなのは炒飯かな?お米は虫が湧くことなく綺麗だし」


 奇跡的に問題なかった卵もある。

 シャケフレークもあるし、基本的な調味料もある。ちゃんと美味しい炒飯は作れるでしょ。野菜は全滅していたから具材は本当にシャケフレークだけの寂しいものになるけど

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