第二章 現実世界の先輩

魔物討伐

 僕が異世界より現実世界に帰還して早いことでも一週間。

 ここでの生活も慣れ始めていた。


「今日の仕事はこの山の中で侵食型の魔物を倒すことよ。でも、侵食型と言えどもまだ、生まれたばかり。異界を展開する最中の魔物で、まだ完全に展開されてもないから楽に勝てるはずよ」


「楽に勝てるのならいいですね。いやぁ、それにしても、第三課と言っても結構魔物と戦うんですね。僕、魔法少女と戦っていないよ。魔物としか戦っていないです」


「まぁ、人手足りていないからね。魔物の数に対して魔法少女少なすぎるし。私たちは人目に触れないところで魔物たちを大量に倒すのよ」


「まぁ、そんなものですよね」


 魔法少女と戦う為の課だからと言って、戦力になる駒を飼い殺しにしておくわけもないでしょう。

 まだ、そんな犯罪行為に走る魔法少女なんていうのも少ないだろうし。


「あっ、見えてきましたね」


 大した緊張感もなく話しながら歩いていた僕たちの視界に今まさに魔法でもって自身の異界を生み出そうとしていた魔物の姿が映る。


「じゃあ、サクッと倒してきますね?」


 確かにまだ異界が完全に形成される前。

 ゆっくり景色が歪み、異界が生み出されようとしているその一歩手前の様子だった。


「いや、ちょっと待って」


 これなら楽に勝てる。

 そう思った僕が突っ込もうとしたところで早見さんがそれを手で制する。


「どうかしました?」


「いや、私もちょっと凄いってところを見せなきゃね。私ってばまだ蓮夜くんの前で戦っているのを見せたことないし……それに、初対面も私が悲鳴をあげてそれを助けてもらった時だったしね。私、まだ一度もいいところを見せていないし、このままじゃ蓮夜くんからの評価がただの雑魚で固まってしまうわ」


 いや、何となく強そうなのは雰囲気からわかるけど。

 実は異世界に行っていて、戦闘訓練を積んでいました、と言われても不思議には思わない雰囲気を持っている。なんか場慣れしている感じがあるんだよね。

 

「だからこそ、今回は私に任せて頂戴」


 早見さんは懐から一つの銃を取り出し、それを構える。


「私の魔法は結界生成。結界、と言っても透明な壁を作るだけの魔法なんだけどね」


 そんな早見さんは自分の魔法について話し始める。

 普通に話しちゃってもいいのね。なんか聞いちゃいけないのかと思ってこれまで一切聞いていなかったのに。


「基本的には防御力全振りの魔法。ただ、この銃と組み合わせることで強力無比な一発となるのよ」


「……銃と?」


 結界と銃。

 全然繋がりが見えないけど。


「結界の大きさは何時でも任意に変えられる。弾丸サイズにまで縮めた結界を銃で相手に打ち込み、そして、そのサイズを巨大化させる」


「……おん?」


 なんかやべぇ気がするぞ?

 そんなことを思っていた僕の隣で早見さんが銃の引き金を引き、銃口より発射された弾丸が異界を生成中の魔物へと突き刺さる。


「これで大体私の勝ちね」


 その次の瞬間、魔物の体が真っ二つに断たれた。


「……えぐっ」


 思っていたよりも、思ったよりもはるかに強かった。

 魔物の体を真っ二つに断ったもの。それは早見さんが魔法で出した結界、なのだろう。

 いや、想像よりもはるかに化け物だ。何だそれ、無茶苦茶じゃないか……再生能力持ちとは相性悪そうだけど、再生能力ない相手だったら大体負けないでしょ。それ。


「確かに、第三課だ」


 魔物だったら再生能力を持っていたり、銃で打ち出しても貫けない皮膚を持っていたりする可能性もあるが、これが魔法少女相手だったらその可能性はぐんと下がる。

 これは対人専門の第三課だし、手札も晒そうとしないわ。


「ふふっ、でしょう?……ちなみに、蓮夜くんならどう対処する?」


「普通に見て避けられると思う」


 強力な一発だ。

 でも、あくまでこの攻撃速度は弾丸と同じ。弾丸よりも早い速度で動ける僕まら


「問題は結界の硬さがどれくらいか……守備に回られた時も大変そうですね。とはいえ、他に手札がないのであれば、負けないと思いますよ。そもそも自分、再生能力持ちなので、一発貰っても耐えますね」


「に、人間?」


「人間ですよ?」


 よくある無属性魔法だ。

 異世界だと最上位者は大体つかえていた。果たして、この世界はどうなのだろうか?


「……ま、まぁ、それでも私が結構強いってのはわかってももらえたわよね!」


「最初からそんな侮っているつもりもないですよ」


「あら?ほんと?それは嬉しいわ」


「これで依頼は終わりですよね?」


「えぇ、そうね」


「それじゃあ、ご飯を食べて帰りますか。早見さんは何を食べたいですか?」


「蓮夜くんは何を食べたい?」


「また自分が決めるんですか?いつも自分が選んでばかりでちょっと申し訳ないんですけど……」


「私は蓮夜くんが食べたいのを食べたいわ」


「本当ですか?それなら……うーん。今日はパスタの気分ですね。たまに行く和風パスタのお店に行きましょう」


「あぁ、あそこね。あそこのパスタ屋さんは美味しいわよね。うん。それじゃあ、そこに行きましょうか」


「はい」


 無事に魔物との戦闘を終えた僕たちはいつものように帰路へと着くのだった。

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