公安魔法少女

「良かったわね。記憶を取り戻せて」


「いや、本当に」


 父親の手によって僕の立場は良い感じにまとまった。

 戸籍も何かいい感じに動き、経歴もそれっぽい感じになったことで僕は改めて、早見さんと土御門さんの二人に自分の素性を軽く明かしていた。


「それにしても……まさか一条くんが一条大臣の息子さんだとは思わなかったわ」


「まぁねぇ」


 結構なビックネームだよね。

 神隠しに合っていた記憶喪失児の父親が日本でもトップクラスの要人だなんて驚きだよね。


「一応同じ苗字だから」


「そうだとは思っていたけど、まさか親族とは思っていなかったわ。あの人もあの人で子供、いたのね。奥さんの姿も見たことなかったから」


「まぁ、素性に関して話さない人だから」


 父が外で僕の話をしているなんて聞いたことがない。

 お母さんは僕を産んですぐに亡くなっているし。


「とはいえ、父が凄い人だとしても関係ないよ。結構放任主義……結構どころじゃないな。ガッツリ放任主義だからね。僕の父は。己が名にもせず、ただ親の力に頼って何の価値がある?とか言う人だから。父が凄い人だからって僕が何かしてもらえることないよ」


「……つまり?」


「ということで、これからも僕はここで働きたいんですけど……」


 父親の力でまた新しく高校に……なんていうのは厳しいだろう。

 せっかく就職先を見つけたのだ。

 このまま公安魔法少女第三課に就職したい。公安なのだ。転職に際してそんな不都合になることはないだろう。魔法少女として活動していただけで就活で有利になるらしいからね。調べた感じ。


「もちろんよ!よかったぁ。一条大臣の息子さんなんてこのままここに残ってくれないんじゃないかと思って!」


「いやいや、自分自身は行く当てを無くした放浪児ですから」


「ありがと。


「それじゃあ、改めてちゃんと私たち公安魔法少女について話しておこうかしら?詳しくは話していなかったわよね。公安魔法少女は全部で三課に分かれているわ。まず第一課。戦闘部隊よ。魔物と戦うのが仕事ね。次に第二課はサポート部隊よ。第一課のサポートだったり、世論の印象向上だったり。そんなことをしているわね」


 おー、めちゃくちゃシンプルだ。

 というか、この二課だけで良いでしょ。第三課は何の為にあるん?


「そして、私たち第三課。私たちは少人数……表向きには特殊な素性の人たちが集められている、ということになっているけど、実際は違うわ」


「ふむ」


「そうね……まず、分かっていて欲しいのだけど、魔法少女、と呼ばれている少女の実態はただ魔法という力を持っただけの思春期の女の子に過ぎないわ」


「……あぁ、なるほど」


「力に溺れ、非人道的行為に走っていく子たちも残念ながら一定数存在するわ。私たちは犯罪行為に走った魔法少女を内々に処理するための存在なの」


 確かにそれは必要だ。


「そんな存在だから私たちは基本的に自分たちの力を見せることはないのよ。私たちが戦うのは同じ魔法少女。相手の情報を知り尽くした上で、こちらは不意打ちで殺すのよ」


「……えっ?自分だけめっちゃ力振りまいたですけど」


「いや、力押しなら手札を隠す必要もないでしょう?私たち第三課は流石に周りから舐められ過ぎだと思ってね。ちょっと強さを誇示しないとって思ってね」


「なるほど……」


「それでさ、これからどうするの?私たちの方に身を寄せるってことだけど……家とかはどうするのかしら?」


「うーん、実家の方に帰ってもいいですけどぉ」


 あの家、一年間放置されていたせいで結構あれなのだ。

 汚い。綺麗だったのは僕の部屋だけで、リビングとか他のところ結構ぐちゃぐちゃ。泥棒でも入ったのか、テレビが壊されていたり、大量のものが散乱していたり、信じられない状況で、ちょっと住みたいと思えるような状況じゃない。

 

「社宅とかあります?あるならそっちの方がいいです」


「あぁ、あるわよ。そっちの方に引っ越すかしら?」


「ぜひ!」


「わかったわ。こっちのほうで処理しておくわ」


「ありがとうございます!」


 よし!これで就職先に加えて家もゲット。

 現実世界に戻って来てどうなるか……不安だったけど、これでもう何の心配もいらないかな?」


「……あの、改めてになるけど、私たちの仕事は人を殺すこともあるわ……そこは、大丈夫かしら?」


「ん?あぁ、そこはあまり気にしないので」


「そ、そう」


 異世界で人を殺した経験はいくらかある。

 必要ならやる。それが異世界で僕が学んだことだし、それがこちらの世界に帰ってきて急に忌避感が生まれたりはしない。

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