父親
『本日の配信で見られた侵食型の魔物を単騎で討伐しきってみせた無名の魔法少女。その正体について、当チャンネルで追っていきます』
窓より陰り始めている日光が差し込んでいるだけの暗い部屋にテレビよりアナウンサーの声が響く。
必要最低限の調達品が置かれるだけの殺風景な部屋へと僕は転移魔法で不法侵入していく。
「お久しぶりですね」
「……っ」
大して広くもない上に物も少ない部屋だ。
不法侵入者がいれば、すぐにわかる。
不法侵入してきた僕をすぐ視界に収め、部屋の中にいた人物へと声をかける。
「貴方のことですから、どうせ上の方にいるでしょうと思ったらビンゴです。新しく出来た魔法防衛省。そのトップたる魔法防衛大臣の名前に見知った名前がしっかりありました。経済人から政治家に転身したんですね?たった一年でただの経営者から大臣にまで登り詰めるなんて流石です」
「……お前か」
「はい。貴方の愛する我が子ですよ?」
部屋の奥に置かれている椅子にどっしりと構えていた男性。
それは僕の実の父、一条有馬であった。
「いやいや、それにしても名前を調べるだけで今、貴方が何処にいるかわかるなんて、子供として中々楽になったものですよ。まぁ、普通の家族であれば家にいるだけで会うでしょうが」
僕と父の関係は少々特殊だ。
何せ、父が中々に癖の強い人なのだ。
世界シェア一を誇る電子決済サービス提供会社の設立から始まり、日本一の半導体メーカー創立。宇宙開発会社の創立等。数多の事業を手掛け、そのすべてで大成功。停滞する日本経済をたった一人で建て直したとさえ言われる怪物こそが僕の父親なのである。
そんな父は昔から『価値』というものを大切にしていた。
実の子どもであろうとも、価値があるかないかで判断し、何者でもないただの餓鬼には価値がないとして、見向きもしてくれない父親失格のトンデモナイ奴なのである。
幼少期の頃から僕は一人暮らし。隣に住んでいる幼馴染の家の親御さんに育てられ、実の父と会うのは年に二、三度あるかないかという普通であればありえないような家庭環境で僕は育っていた。
こんな父親であるからこそ、僕は異世界から帰って来てすぐまず父に頼るのではなく、他の組織を頼るしかないという意味わからない状況になったのだ。
これまでも十分よくしてもらった幼馴染の家の親御さんに厄ネタを持ち込むわけにもいかないしね。
「どう?成長した息子の姿を見て、何かこうぐっとあるものあります?一年ぶりですけど」
そんな父の元に僕は一年越しに訪れに来たのだ。
侵食型の魔物をほぼ単騎で倒した魔法少女───間違いなく価値ある人材だ。その人材がこの日本に身を固める為の工作であれば、今や魔法少女を管理する省のトップとなった父にも意味ある行為だろう。
フワフワしている自分の立場を確固たるものにする為、僕は父の元に訪れていた。
「……この一年間、一体何処に行っていた?」
そんな僕に対し、お父さんはまず、僕が何処に行っていたのかという聞いて当然とも言える疑問を投げかけてくる。
「異世界に行っていました」
「……?」
それに対する僕の答えを聞き、お父さんはキョトンとした表情を浮かべる。
「ふふっ、僕、お父さんのキョトン顔初めて見たかもしれないですよ。魔物やら、魔法少女やら、何でもありの世界なんですから、息子が異世界に
「……ふぅー、さしもの俺も自分の息子が女装してテレビに出ていることを見ることになるとは想定できなかった」
「……それは言わないで」
いや、本当にそれは駄目でしょう。
今、一番触れて欲しくない僕の傷だよ。
「魔法のある異世界、か。そこで実力を磨いてきたか。何とも都合のいい話だな」
「確定的なことは言えないけど、それはないと思うね。侵食型の魔物なんて異世界にはいなかった。それに、向こうの世界でこっちの世界そのものに干渉するような大きな魔法を見つけてもいない。たまたまだと思う」
「……これ以上、お前に聞いても仕方ないか。一年だったのだろうか?」
「そうだね。一年。異世界のすべてを知れたつもりはないよ。爆速で魔王を倒しに行ったからね」
「で?これからどうする」
「公安魔法少女第三課に所属しようかな、って思っている。今はちょっと記憶喪失名乗っているんだけど、良い感じにお父さんの子どもってことにして、一年間の空白部分とか含めてそれっぽいストーリー作って僕の立場を確固たるものにして。記憶喪失名乗り続けるのも辛いから。良いでしょ?」
「それくらいなら容易い。うまくお前の戸籍を動かしておこう」
「ありがと」
お父さんがさも当たり前のように僕の戸籍を動かしているのは気づかないことにしよう。
やっぱり持つべきものは有能な父だね。
これで僕もちゃんと自分の立場を固めることが出来るだろう……いや、普通はこんな遠回りする必要ないと思うんだけどね?親から認めてもらうために功績を打ち立てなきゃいけないってどんな親子関係だよ、ってね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます