勧誘

「い、いやいや!?」


 無事に鹿を叩きのめした僕に対し、後ろから鈴木さんが大きな声でツッコんでくる。


「ん?」


 後ろを振り返ってみれば、魔法を使って援護してくれていた魔法少女の方々が僕のことを信じられないものでも見るかのような視線をこちらに向けていた。


「侵食型の魔物をソロ討伐!?んな馬鹿な!?……そんなの、無名の魔法少女がやっていいことではないぞ!?ランキング一桁の超上澄みで行けるか、行けないかという次元でっ」


「いや?別にソロではなかったじゃん」


 僕の方に近づきながら色々喚きたてているが、そもそもとして僕はソロ討伐してなくないか?


「いや!あんなの実質ソロ討伐だから!私たち別に要らなかっただろっ!」


「いなかったらもっと苦戦したと思うよ?」


 異世界で勇者として戦っていた時と比べると、僕の強さは結構落ちている。

 まず、大半の魔法が使えない。魔力を使っての身体強化、転移や結界等の無属性魔法は使えるのだが、炎を出したり、水を出したり。五大属性に類する魔法が使えないのだ。

 後、加護であったり精霊召喚・憑依。神器解放等。様々なチート能力が使えない。

 今の僕は異世界上がりの身体能力と豊富な魔力量を有するちょっと便利な無属性魔法の使い手になってしまっている。


「苦戦って言っている時点でソロでも勝てることを宣言しているようなものでないか!」


「まぁ」


 苦戦はするだろうけど、勝てなくはなかっただろうな。あの感じ。


「……し、信じられない。貴方、本当に第三課なの?」


「えぇ、そうですよ?」


 わぁ、びっくり。

 第三課。すっごく評価が低い。何でこんなに評価低いんだ……公安魔法少女の課が幾つあるのか、それぞれどんなところなのか。

 何も知らないけど、第三課が下に見られているということだけが確かなのちょっと嫌だな。


「私の方から打診しておく。こっちの第一課に移らないか?魔法少女の花形と言えば第一課だ。第三課よりもおススメだぞ?」


「ちょっと、私の後輩を奪おうとしないでよ、ね?」


 僕が鈴木さんから勧誘を受けたところで早見さんが口を挟んでくる。


「その子はこれからの日本を背負っていけるだけ逸材だ。実力は高く、見た目も麗しい。そんな逸材を第三課で腐らせるつもりか?輝ける場所で、思う存分輝くべきだ」


「第三課でいいですよね?蓮夜くん」


「まぁ、そうですね」


 僕は女装している魔法少女とかいうトンデモ存在だ。

 花形らしい第一課に行ったら浮くじゃないか。記憶喪失という設定だし。色々と厄ネタの宝庫過ぎて受け入れてくれるところなんて絶対に少数……果たして、この鈴木さんも僕のすべてを知ってなお受け入れてくれるのだろうか?持て余すぞ、絶対。


「……いや!駄目だっ!」


 そそくさと断り、


「君は第一課に入るべきだ!君ならこのすっかり暗くなってしまった日本に再び明かりを取り戻せる!魔法少女たちの希望にだってなれるはずだ!それだけの強さがある!そして、カリスマ性がある!」


「か、カリスマぁ?」


「あぁ、そうだ!立ち振る舞いからして違いがある!」


「……はぁ」


 初対面で結構わかりやすく他の魔法少女から軽んじられましたけど、本当にあります?カリスマ。


「魔法少女たちの上に立ってくれ!」


「……」


 お、重い。

 僕の両手を取りながら熱く語る鈴木さんに僕は思わず頬を引きつらせる。初対面だぞ。何がここまで彼女を駆り立てているんだ。


「……正直に言って、今の状況を良いと表現することはできない。だからこそっ」


「ちょっとぉ、何度も言うけど、私の後輩くんを取らないでよぉ」


 少しばかり鈴木さんの熱量に引いていた中、僕の後ろへと移動してきていた早見さんが僕を後ろから抱きしめ、そのまま強引に鈴木さんから引きあがす。


「早見っ!」


「そんな怖い顔をしないで?その顔は後輩を引き抜かれそうな私がしたいわよ?」


「はにゃっ」


 む、胸が……早見さんの胸がちょっと僕の背中に当たっているんですけど……っ!?!?


「第三課に何が出来る……属する人間が十人を少し超えるばかりの課が。持て余すだけだろう」


「私たちには私たちの仕事があるわ。もう、異界は崩れている。帰らせてもらうわよ?……ほら、転移」


「はひっ」


 僕は耳元で告げる早見さんの言葉に頷き、転移魔法を発動させて異界の外のビルの屋上へと転移する。


「ここまで来たらあの子も追いかけて来れないでしょう」


「……そ、そうですね」


 自分からそっと離れた早見さんの言葉に僕は頷きつつ、異界のほうへと視線を送る。

 鹿の魔物を倒したことで異界は崩れて行っていた。


「さっ、帰りましょう?」


「そうですね」


「お腹空いたわ。帰りに何か食べていく?何が良い?」


「えっ?……うーん。個人的にはラーメンですかね?それにしても、まずは女装を辞めるところからですけど」


「えー、そのままでもいいのに」


「それは絶対に嫌です」


 それにしても、異界が崩れた後、普通に元のビル群が戻ってくるんだな。

 本当にどういった魔法なんだが。

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