公爵家と王家の双子事情

であどりね

公爵家と王家の双子事情

 ハプス公爵家には三人の子供がいる。

 一人は、サルト。公爵家の長男で優秀な後継だ。

 他には双子の姉妹がいる。青リボンをつけているアンナは不出来な姉、赤リボンをつけているミランダは優秀な妹と言われている。


 姉は不出来で妹は優秀。テミラン王国での周知の事実。


 もう一つ、テミラン王国で周知の事実がある。

 王国の双子の王子は、獅子のブローチの兄・ルイは優秀、虎のブローチの弟・フロイトな不出来だということ。


 ある日、ミランダとルイ、アンナとフロイスの婚約が発表された。


 そこからしばらく、人々の話題の中心は四人のことだった。


「どっちかが優秀だとどっちかは残念になる」


 いろんな人が口を揃えていったセリフだ。


 そんな双子の生活を少し覗いてみよう。






◆◇◆






 公爵家にて、アンナとミランダは二人は家庭教師の授業を受けている。


「アンナ様、隣のミランダ様を見習ってください」


 家庭教師は目の前の青いリボンをつけたアンナの行動に注意をする。

 その少女は妹のミランダが必死に授業を受けている中、授業を何も聞かずに落書きをしていたのだ。


「あら、いいじゃない。別に私が不出来なのはもうみんなが知っている事実よ。今更頑張ったところで意味ないわよ」


 家庭教師の言葉に呆れたような口調で返すのを赤リボンの子が諌める。


「お姉様、流石にその言い方は…」


「あら事実じゃない。あなたは私が不出来なおかげで王太子と婚約できるのよ?感謝される筋合いはあっても咎められる筋合いはないわ。あ、私今日お出かけを予定しておりましたの。失礼しますわ」


 そう言うと、さっきまで書いていた落書きをもち、まだ授業が終わっていないにも関わらず部屋を出て行った。


「先生…すみません…」


 ミランダはアンナの行動を体を縮めて謝る。


「いえいえ、ミランダ様は悪くありませんから。まったく、アンナ様はどうしてああなのかしら」


 家庭教師は眼鏡を持ち上げながらため息をつく。








◆◇◆





 青いリボンをつけた少女は、さっきまで着ていた服とは、異なる、平民と同じ素材の服を着ていた。

 少女は自身が書いた自信作を持ち、家を出る。


「これは売れるわ」


 鼻歌を歌いながら家を出た。



◆◇◆





 公爵家で二人授業を受けていたのと同時刻の、王家。


 王太子二人用の執務室。片方の席は空席だった。


「あの、フロイス様は…」


 執務室に入ってきた二人の従者のうちの一人、クリスが目の前にいる王太子の一人に恐る恐る尋ねる。


「あぁ、あいつは用事があると、つい先ほど出て行きました。何かありましたか?」


「いえ、ただ、いつもルイ様がほとんどのお仕事をやられているな、と」


「あれは、動き回るのが性分ですから」


 獅子のブローチをつけたルイは苦笑いをする。


「確かに、幼い頃からお二人を見ていますが、虎のブローチをつけた方がじっとしているところは想像できませんね」


 もう一人の従者、ラウルは困り顔だ。


「ですが、それではルイ様にご負担が…」


「私は、大丈夫ですよ、適度に休息していますから」


 そういってルイは執務に取り掛かる。





◆◇◆





 虎のブローチをつけたフロイスは、商人のような出立をしている。


「さて、今日はどんなアイディアが来るのやら」


 青年は足取りを軽く、王城から出ていった。




◆◇◆






 公爵邸の双子の寝室にて。


 瓜二つの少女が顔を見合わせて話していた。


「アンナ、お兄ちゃんが、気持ちはわかるけど授業を抜け出すなっていってたよー」


「あの家庭教師お兄ちゃんに言いつけちゃったか、私の代わりにミランダが怒られたの?」


「うんん、違うよ。お兄ちゃん今日はアンナの日だってわかってたから、アンナの明日のお菓子少し減らしとくって」


「えぇ、そんな…。今日は、ちょっと名案が浮かんじゃってさぁ、仕方なかったんだよ」


「あははは、アンナらしいねぇ。じゃぁ、さくっと情報共有をして、アンナの惚気話聞いて、寝よっか」


「は、は??惚気話なんてないし!!」









◆◇◆





 王族の自室にて、見分けのつかない二人の王子が話していた。


「こっち来る時にラウルにあっちゃってさ、またお小言言われちゃったよ」


「なに?クリスがめんどくさいってことが顔に出てたって?」


「よくわかったね。クリスは、仕事ができるんだけど、頭が硬いからね。仕事をしない虎の王子が気に食わないみたいでさ」


「あいつは事情もしらねぇし、しょうがない部分はあるだろ」


「それはそうか、こっちは、変わったことはなかったよ。書類は次フロイスが見たら何の書類かわかる程度には整理してあるよ」


「お、さんきゅー」


「君の方は今日どうだ?」


「今回の新作はな、大量生産もしやすそうだったし、大衆向け商品だな。いやぁさすが俺の女って感じだな」


「惚気はいいからさっさと詳しい話をしてよ」


「ちぇっ、俺はいつもお前の惚気聞いてやってんのにさ」






◆◇◆





 最近、貴族の話題の中心は、二組の対照的な双子の話から変わっていったようだ。


 最近の話題は急成長を遂げているアフルミ商会。

 画期的で興味深い商品を大量生産して売っているそうだ。

 値段も大衆向けから貴族向けまでさまざま、実演販売などが行われ売り方も面白い、と、話題を呼んでいる。


 そして、もう一つアフルミ商会が話題を呼んでいる理由、それは創設者に謎が多いことだ。

 普通の商会は創設者や代表者などがわかりやすくなっていることが多いが、この商会は違う。


 噂によると、アイディアを担当する者、アイディアの大量生産方法を考える者、マーケティングを行う者、全般的な経営を行う者、この四人が力と知恵を貸しあい、創設したらしい。


 しかし、この話も噂の域を出ない。


 噂をしている時に誰かが、何気なく呟いた。


『まるで創設者たちが自身の情報を知られたくないかのようだ』


 その話をたまたま耳にしたのは、『双子の被害者の会』と称して飲み会をしていたサルトと、ラウルだった。サルトと、ラウルはそれぞれ違う双子を思い出し、ふっ、と笑った。






◆◇◆









 アンナが授業を途中退室してから数日後。


 公爵邸にて


 本来、家庭教師を含め3人いるはずの部屋には、二人しかいなかった。青いリボンの少女が、授業に来ていないのだ。


「ミランダ様、アンナ様は…?」


「体調が悪いようでして…。申し訳ありません」


 赤いリボンの少女は数日前と同じように体を縮めて謝る。


「いえいえ、先日も言ったようにミランダ様は悪くありませんから」


「ありがとうございます」


 そして、家庭教師と赤いリボンの令嬢のマンツーマン授業が始まった。






◆◇◆




 青いリボンの少女は書類を眺めつつ、つぶやく。


「やっぱ実演販売をやると売り上げ伸びるなぁ。その分人件費がかかるけど、やっぱりそれ以上の利益があるよねぇ」


 手に持った紙を眺めながら家庭教師が来る前に公爵邸を出ていった。






◆◇◆





 赤いリボンの少女が家庭教師からのマンツーマンレッスンを受け始めた時刻とほぼ同時刻、王子二人の執務室にて、


 クリスは、仕事をしているかは別として、昨日までは執務室には、来ていた虎のブローチの王子を探す。


「本日は…、フロイス様は…?」


「今日体調が悪いと、部屋から出てきませんでした」


 この前と同じように獅子のブローチをつけた王子は苦笑いをする


「ちょっと前に出かけた時に雨に当たってしまった、とかいってましたね」


 ラウルは、思い出したように言う。


「本当にそれでよろしいのですか…?一国の王子が…執務をサボるなど…」


 クリスは納得がいかない様子だった。


「まぁ、始めましょう」


 獅子のブローチの王子は執務に取り掛かった。





◆◇◆





 早朝、


「かつてないほどの黒字。経営は軌道に乗り始めているな」


 虎のブローチの王子は書類を眺めながらひっそり王城を出ていった。





◆◇◆




双子のうち、不出来と言われる方が仮病を使った日、



 公爵邸の寝室にて


「どうだった?今回のアイディア、ミランダはいけるってこの前言ってたけど、具体化できそう?」


「もちろん、もう完璧だった。あっちからも、文句なしだね。って言われたから、『私の自慢ののお姉ちゃんだからね』っていっておいた」


「うちの妹は、なんて可愛いのかしら、信じられないわ」


「ふふふ、」


「どうしたの?」


「それ今日午前中にも言われたなって思って」


「あらぁ、今日は情報交換の後はミランダの惚気話ね」






◆◇◆




「で、どうだったよ」


「んー、やっぱ実演販売が結構いいんだよねぇ、他にも色々な案があってさ」


「いや、そうじゃなくて今回のアイディア、商品化いけそうか?」


「いけるいける、今回のは売れるねって話をしてたら、胸を張って『私の自慢のお姉ちゃんだからね』って、あぁ、、可愛すぎて心臓が止まるところだったよ」


「はいはい、惚気はいいからさっさと情報交換するぞ」


「え?聞いてくれないの?」


「お前がこの前俺の話をぶった斬ったんだろ!」





◆◇◆






 しばらくして、優秀な兄王子と優秀な妹公爵令嬢、不出来な弟王子と不出来な姉公爵令嬢の結婚式が執り行われた。





◆◇◆





結婚式の日の夜、




 集まった四人の面々を見てアンナがつぶやく。


「四人で集まるの久々じゃない?」


「本当だねぇ」


 1番最初に同意したのは妹のミランダだ。


「確かにな」


 久々の集合に嬉しそうにフロイスも同意する。


「これからは、集まりやすくなる、と言いたいところだが、僕たちには公務もあるからねぇ」


 ルイは困ったように言う


「どっちかが夫婦が優秀なはやらなきゃね。1週間交代とかにする?」


 アンナが言う。


「それがいいんじゃないかなぁ?」


「僕もそれでいいと思うよ」


「俺も賛成」






◆◇◆




 最近のは人々の話題は三つだ。


 一つ目は不出来な虎の王子と、青いリボンの夫婦。

 結婚したら落ち着くかもしれない、という話が、人々の中で囁かれていたが、結局不出来な夫婦は、自由奔放に動き回っていた。


 人々は、口を揃えていった。


『不出来は不出来のままか』


  二つ目優秀な獅子の王子と赤いリボンの夫婦。

 革新的なアイディアで、工業生産の効率化で、特産物などプロデュースによる地方活性化で、堅実な財政管理で、国の発展にさまざまに貢献していた。


 この時もまた、人々は口を揃えていった。


『優秀な方はさらに優秀になった』

 


 三つ目は、最近さらに成長を果たし、大商会へと発展したアフルミ商会だ。


 この話の時もまた人々は口を揃えていった。


『アフルミ商会は、うちの国王夫妻に負けずとも劣らず素晴らしい』


 


 





◆◇◆



 数年後、



 国王が崩御し、ルイとミランダが国王と王妃として即位した。


 その時には、ルイとミランダの夫婦にも、アンナとフロイスの夫婦にも可愛い子供が生まれていた。







 アフルミ商会は王国を超えて有名な商会となった。

 しかし、創設者がだれなのかは、いまだに謎である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公爵家と王家の双子事情 であどりね @Deadlines

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ