第3話 大丈夫か……すごく運が悪そうなんだけど

“英雄”とか“万人の指導者”とか、“天才”とかはとっくに外している。

それ以外も外してと……

残る条件は“正義感がある”、“善良な心を持つ”と“命が消えかかっている”だけだぞ。


モニターに、やっと“該当者あり”と表示された。


(おぉ、やっと見つかったか!)


転生候補者は、命が消えかかっているという条件設定をしているから、まずは該当者の時間を止めよう。こういうところは、神様って何でもできてすごいと思う。


モニターに表示された名前は――桂木慶介かつらぎ けいすけ

年齢は二十七歳、性別は男だ。

時間を止めている間に彼のこれまでのライフログを早送りで確認する。


子供の頃に両親が交通事故で亡くなっている。

努力して大学に入ったけれど、ケガをして卒業するのに一年余計にかかってと……。

その後、希望する会社に就職できたが、二年もしないうちに、会社が倒産……。


大丈夫か……この若者で?

なんか、すごく運が悪そうなんだけど……?


ところで……死にそうになっている原因は、車道に飛び出した子供をかばって車に轢かれたんだな。

確かに、“正義感がある”と“善良な心を持つ”は問題なさそうだ。


(まあ、いいっか……いろいろ条件増やしても、該当者なしだったし……!)


***


『あ……神様ですけど、この念話、聞こえてますか? 君も心で思えば私と会話できるからね。時間は止めてあるから、安心して話していいよ!』


『君の名前、桂木慶介で間違いないかな?』


『その通りです』


『神様の声が聞こえるということは……私はここで死ぬのですね?』


『そうです……。ところで、ひとつ提案があるんだけど』


『次の人生を……私の担当する世界で、やり直してみない?』


(困惑するよね。私だって世界を一つ任されたときは同じ気持ちだったから……!)


『私の担当する世界に転生して、そこに暮らす人々を幸せにしてくれるなら、君の望む力を授けるよ』


『私の人生は、ずっと運に恵まれませんでした……。もし私に、幸運を与えてくださるなら、その力で人々の幸せのために尽力いたします』


(幸運にするだけで、民の幸福度を上げられるかな? まあ、いいか……!)


「よし、わかった! 君には“運を操るスキル”を与えよう。“人の持つ幸運と不運のバランスを調整できる力”だ。もちろん、自分の運も調整できるぞ」


「ありがとうございます。世界の人たちを幸せにできるよう頑張ります」


(転生者の同意を得たということだよな……! これで神様ルールブック合法だ!)


「じゃあ、了承したということだね。君の魂は私が預かるね。転生後にまた話をしよう」


(よし、決まり……! 転生者をゲットしたぞ。なんか達成感あるな……)


***


慶介くんには、下級貴族・アーサー家の長男ケイスくんに転生してもらうことにした。

なぜケイスくんなのかというと……ちょうど階段から落ちて頭を強く打ち、間もなく息を引き取ろうとしていたからだ。


アーサー家の長男ケイスの人生が終わり、魂が抜けたその瞬間に、慶介の魂を彼の体へと入れ込む。

こういうことも、神務室から出来ちゃうのだ。


魂を入れ込んだら、大急ぎでケイスの体を蘇生する。もちろん失敗なんてしないよ。

神だからね……。


ケイスの脳には、彼のこれまでの人生の記憶がそのまま残っている。

だから慶介はケイスとして、その記憶を引き継ぎ、新たな人生を歩むことになる。


ついでに体を蘇生する際、慶介くんの健康レベルをMAXにしておいた。

病気にもかからないし、多少の毒ならびくともしない頼もしい身体になったはずだ。


それから一年、ケイスはどんどん太り始めた。

いまのケイスの外見は……“ぽっちゃり体型”。顔つきものんびりとして、どこか親しみを感じさせる。


もともとのケイスくんは、すらりとした体型に整った顔立ちのハンサムだった。

だが、そのままでは女性にモテすぎて、与えられた使命を忘れてしまうのではないかと心配したのだ。


容姿なんて、いつでも元に戻せる。

だからまずは、民の幸福度を上げることに専念してもらいたい――そう考えたのである。


それと……

慶介くんに与えたスキルは“運のバランススキル”だけ。

正直、このスキルには戦闘力なんてまったく期待できない。


だからこそ、最強の“ドラゴン”を護衛につけることにした。

ドラゴンは神の依頼を断れない存在だから安心だ。


そのうえ、選んだのは最強の黒竜。

彼が護衛してくれるのなら、これ以上の心強さはないだろう。


ちなみに……

神務室にあるドラゴンの資料を開いてみると――


ドラゴン:黒竜(レグニア)

最強の生物

     戦闘力 ……

     ……   ……

     ……   ……

     現在位置 ……

     特記事項 :怒らせると国一つ滅ぼせる戦闘力あり


――と、こんな具合に記されていた。


そこで神務室から黒竜に念話を送ってみたら……どうやら暇を持て余していたらしく、むしろ二つ返事で承諾してくれた。

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