第4話 受付嬢のセナ
「お前の機体にはレーダーが付いているのか?」
「そんな訳ねえだろ」
「レーダーサイトからの指示か?」
「陣営の境界は何故かレーダー無効になっている。知ってるだろ?」
「じゃあなぜ10キロ以上の距離を飛ぶ小型機を発見できて、機種まで特定できるんだ?」
「ちゃんと理由はある。そのうち教えてやるよ」
そのうち教えるか……まあいい。あの、悪役面の索敵能力がべらぼうに高い事はよく分かった。そして機体を操る腕もいい。藪酒と組めばガッツリと稼げるのは間違いなかった。
機体を整備に預けて事務所へと向かう。そこで当日の戦果を報告し、ポイントの加算を行うのだ。
「いらっしゃい」
受付の女性がカウンターの外で微笑んでいる。俺を待っていたらしい。
「私は
「ああ、俺は……」
黒髪で華奢な彼女の人差し指が俺の唇を押さえた。
「知ってる。
受付の娘が俺を誘う?
そもそも、受付は
そのはずなのだが、目の前にいるセナの足元にはくっきりとした影があった。
「どうしたの? 私の脚が気になるの?」
そう言ってグレーのタイトスカートをチラリとめくって太ももをさらした。しかし、華奢な彼女はいわゆるロリ体形であり、幼い外見と相まって俺の性癖に刺さる容姿ではなかった。
そんな俺の態度に気づいたのか、セナは無言で俺の顔を見つめる。
「ふーん。私には興味ないのね」
「そうかもしれない」
「じゃあ、とりあえずこの書類にサインして」
バインダーに挟まっている書類に目を通す。本日の撃墜数は2となっていた。
「サインして」
「いや、俺は一機しか墜としてない」
「藪酒から報告があった。敷島君が上手く誘導して山にぶつけたって」
悪役面め……初っ端からやりやがった。俺が受け取らないと知っていてこういう事をするのか。
「これは訂正できないのか?」
「無理。レコーダーの記録と一致してるの」
「記録と一致しているだと?」
「そうよ。不正できないように空戦データは保存されてます。敷島君の機体を追っていた
俺は確かに、藪酒の射撃でヤクが燃えたのを確認している。これは、データの改竄が行われているという事なのか……。
「深い事は考えない。はい、サイン」
俺は突き出された書類にサインしてセナに突き返した。
「ご機嫌斜めなの?」
「真っすぐな訳が無いだろう。午前中に撃墜されて午後は長時間車に揺られ、ここに着いたらすぐに出撃して戦闘してもう日が暮れる。どんな一日だって話だ」
「それもそうね。じゃあ、今夜の食事は私の奢りよ。ちょっとだけ飲んじゃう?」
「好きにしろ」
「じゃあそうする。食事は部屋に運ばせるから。ああ、あなたの部屋はこっちよ」
セナに誘われるまま彼女の後に続く。奥に続く廊下を真っすぐに進んでから階段を上った。事務所と同じ建物の二階に俺の居室は用意されていた。滑走路のすぐ傍なので、騒音が酷いのだろうがしばらくはここで我慢するしかなさそうだ。
「はい。これが部屋のキーね。一応、制服と下着、あと普段着用の衣類も用意してあるから。気に入ってもらえると嬉しいわ」
「君が用意してくれたのか?」
「もちろんよ。さ、シャワーでも浴びて待ってて。すぐに食事を持って来ます。10分くらいかな? じゃあね」
笑顔で手を振りながらセナが部屋から出て行った。入れ替わりにあの悪役面が入って来たのだ。
「よう。邪魔するぜ」
「お前もここで飯を食うのか?」
「いや、俺は食わんよ」
「だったら何故?」
「教えてやると言っただろう」
そう、藪酒の秘密だ。異常なまでの索敵能力の事だ。
「簡単にバラしていいのか?」
「いい。というか、お前との協力関係を築きたいからな」
「なるほど」
俺を誘い込んで嵌めて墜として味方にした。そこまでして協力したい……その真意とは何なのか。非常に興味深い。
このゲームのような世界についても謎だらけだ。幾つかの陣営に分かれて戦争をしているわけだが、どんな理由で戦っているのか誰も知らない。
俺は撃破ポイントを稼ぐ目的で戦ってはいるが、そのポイントを与えている存在……運営についての知識はない。また、ポイントを貯めてどうしたいのかが分からない。故郷に帰って何かしたいのか同かもわからない。その辺の記憶が俺の中からさっぱり抜け落ちているのだ。
自分を知る。自分を取り戻す。その為には目の前にいる悪役面と仲良くなるのは必然なのかもしれない。
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