第2話 メッサーシュミットBf109グスタフ
「俺の名は
「ああ」
敵なのに馴れ馴れしい奴だ。ついでにいうと、悪役面のくせにニヤニヤと笑顔を絶やさない。
俺は車に乗せられ、奴らの空軍基地へと連れていかれた。およそ200キロほど走っただろうか。四時間ほどの長距離走行にかなり疲労してしまった。
「ここがヴァルボリ空軍基地だ。お前もよく知っている米軍機とドイツ機が多数配備されている」
「そうだな」
「こっちへ来い」
独房にでも入れられると思っていたのだが、連れていかれたのは整備工場だった。藪酒と一緒にその事務所へと入っていく。
「おお、よく来たな。君がブラックマジシャンの敷島旭君だね」
俺を出迎えてくれたのは作業服を着た女性だった。銀色の髪を後ろでくくっている白人で、恐らく50代だろう。
「私は工場長のクリスティン・レオンハルトだ。君を歓迎するよ」
「歓迎だって。俺は敵じゃなかったのか?」
「ふふふ。まあ、ここでは戦争をしているんだが、いわゆる一般的な戦争とは趣が異なっている。国と国が戦っているわけではない」
「それはそうだが……」
目じりのシワが目立つが、細面で年相応の美女だ。彼女は立ち上がって俺の右手を握って微笑んだ。俺は戸惑いながらも彼女の右手を握り返した。
「さて、君の一式戦だがこちらで回収する予定だ。修理に相応の時間がかかる」
俺は静かに頷く。
「私からの提案だが、メッサーシュミットに乗ってみないか? そして、そこの藪酒と組んでみないか?」
俺は振り向き、斜め後ろに立っていた悪役面を見つめる。奴はニヤニヤしながら口を開いた。
「俺と組むと良い事だらけだぜ」
「どんな?」
「ふふ。もっと稼げるって事さ」
「撃破を譲るとでも?」
「そんなんじゃねえよ。ま、たとえ譲ったとしてもお前は受け取らん」
「わかってるじゃないか」
「敷島君」
クリスティンに声をかけられて正面を向く。
「彼は目が良いんだ。ビックリするくらいに」
「目が良いだと? 片目なのにか?」
首をかしげる俺に対し、彼女は頷きながら微笑んでいた。
「そう。百聞は一見に如かず。一緒に飛んでみたらどうかね?」
「飛ぶ? こいつとか?」
「そうだ。それとな、私の手が入ったメッサーは高性能だ。体験した方がいいぞ」
「そんなに?」
クリスティンは微笑みながら頷いている。藪酒はニヤニヤしながら俺の肩を叩いた。
「さあ、行こうか」
クリスティンはデスクから立ち上がって工場内へと入っていく。その後に藪酒が続き、俺は彼の後を追った。
工場を横切って滑走路へと向かう。そこでは二機のメッサーシュミットが発動機を回して待機していた。
どちらもグレーの迷彩塗装が施してある。一機は尾翼が赤く塗られており、胴体部分、鉄十字の横に黒い死神のマークが描かれていた。その隣いる機体は尾翼が黒く塗られており、胴体部分には黒いローブを被った魔術師のイラストが描かれていた。俺の乗っていた一式戦は尾翼を黒く塗っていたが、魔術師のイラストなど入れていなかったのだが。
「そのイラストは気に入ってくれたかな」
「ブラックマジシャンだから黒い魔術師のイラストなのか?」
「もちろんそうだ。俺の機体は死神だしな」
こういうイラストを期待に描く事は何となく不謹慎だと思っていた。俺が所属していたティターニア空軍においても、こういったイラストやノーズアートなどが描かれた機体は少なかったと思う。
「僕は担当整備士のヴェルナー・ヒュッターです。機体の取り扱いについて説明します。先ず、操縦桿の上側、こちらのボタンが20ミリ機関砲のトリガーです。親指で操作してください。こちらのトリガーは13ミリ機銃用です。人差し指で操作してください」
「別々に発射できるんだな」
「はい。装弾数は20ミリが150発、13ミリが250発ですので、上手に使い分けて下さい」
「わかった」
当然と言えば当然だ。20ミリと13ミリの混載なら、13ミリを撃ちながらここぞというタイミングで20ミリを放つべきであろう。
「では御武運を」
ヴェルナーが翼から降りたところでスロットルを押し込み、滑走路の真ん中へと向かう。先に待機していた悪役面の機体が加速を始めた。俺も彼についていくべく、スロットルを更に押し込んで全開にした。
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