蒼空の死神

暗黒星雲

第1話 一式戦闘機〝隼〟

 俺はいつものように、単独で哨戒飛行をしていた。その理由は一人で戦った方が獲得できる撃破ポイントが多いからだ。


 通常は二~四機、即ち一個小隊か二個小隊で行うべき任務だ。敵の多くは単独の偵察機なのだが、時には威力偵察として複数の戦闘機が飛来する。要は、こちらが複数で対応すべき事態も多発しているからだ。


 しかし、俺は一人でやる。

 より多く稼ぐためだ。

 そして、俺の力を存分に発揮するためだ。


 俺は強い。相手が複数であっても、空戦において負ける気がしない。航空機を操る技術において、俺の右に出る者はいない。


 俺がここ、ティターニア空軍基地に配属されて一年半。百回以上の空戦をこなし、全て勝ち続けている。撃墜数は107機。勝率でも撃破数でも俺がトップだ。

 

 この世界では今、三つの陣営で三つ巴の戦いを強いられている。


 俺が所属するティターニア空軍は主に日本と英国の航空機で戦っている陣営だ。俺たちが正面から対峙しているのがブーゲンビリア陣営。ここは主にドイツと米国の機体が揃っている。ブーゲンビリアの向こう側、俺たちとは直に接していないのだが、そちら側はダジボーグ陣営であり、主にソ連とフランス、イタリアの機体を使用している。


 陣営としてはブーゲンビリアが最も大きく、次いで我がティターニア、ダジボーグとなる。大まかな戦力比はブーゲンビリアを10とした場合、ティターニアは6、ダジボーグは4となるらしい。


 ブーゲンビリア陣営は我がティターニアとダジボーグアに挟まれた位置なのだが、彼の陣営はなかなかどうして強力であり、その前線を突破するのは難しい。


 そこで俺たちは陣営の境界付近をちょろちょろと飛び回り、相手の出方、使用機材を探っているという訳だ。


 高度約3000メートルでウロウロしている俺は恰好の的であるはずだ。しかし、敵は飛びついて来てくれなかった。燃料が残り少ないので、そろそろ帰投しなくてはいけない。


 今日の獲物は無かった。稼げなかった事にやや不満はあるが、それでも生きて帰れた事には感謝しなくてはいけない。撃墜された場合は、ペナルティが課せられ、稼ぎがごっそりと減ってしまうからだ。

 

 俺が機体をロールさせて旋回を始めた瞬間に曳光弾が機体を掠めた。敵機が上空から急降下しながら射撃して来たのだのだが、幸い命中はしなかった。


 そしてもう一機も降下しながら射撃して来た。俺は機体を更にロールさせて地上へ向かって急降下させた。


 二機のメッサーシュミット。恐らく109のG型だ。降下していくメッサ―を追いかけても向こうの方が速い。相手は二機だ。逃げるか、迎え撃つか。迷っている暇はない。


 俺はそのまま地上スレスレまで降下して敵の出方を探る。誘いに乗ってくれれば……と思っていた矢先、地上に対空砲の車両が見えた。四門の機関砲を載せたドイツの対空砲戦車ヴィルベルヴィントが二両もいたのだ。


 計八門の20ミリ機関砲の射撃により、俺の一式戦は火を噴いてしまった。脱出するには高度が低すぎる。


 幸いにもそこには比較的大きな川が流れていた。俺は迷わず、その川に機体を滑り込ませた。プロペラが水面を叩いき、激しい水しぶきが上がる。ボートのように水上を数十メートル滑った後、河原へと突っ込んだ。


 やれやれ、戦闘機同士の戦いなら負ける気はないんだが、まんまと対空砲の前に誘われてしまったという訳だ。向こうの作戦勝ちである。


 俺は風防を開いてからコクピット降りて翼の上に立った。四輪駆動車ジープサイドカーBMW・R75がすぐに駆け付けてきたのだが、あまりにも早い到着だったので面食らってしまった。


「ティターニアのブラックマジシャンこと、敷島旭しきしまあきら君だね」


 ジープの助手席から降りてきた片目の男が尋ねてきた。俺の名まで筒抜けになっているらしい。そういえば、俺はブラックマジシャンなどという大そうな二つ名で呼ばれている。それは、機体の尾翼を黒く塗っている事と、変幻自在に機体を操って撃墜するその様が魔術のようだと恐れられているから。


「さあ同行してくれ。大人しくしていれば悪いようにはしない」


 悪役面の片目男がニヤリと笑った。

 そいつは、今時こんなのがいるのかと思う程の悪役面だった。

 

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