インタビュー文字起こし②
2 0 2 4 / 9 / 2 午後2時11分
インタビュワー:北窓友也
対象:舘崎村落氏
インタビュー対象は1年ほど前まで、アバンドン舘崎の名で廃墟探索系配信者として活動していた。本インタビューは彼が手帳の記述について重要な情報を握っているものとしてアプローチをかけ、実現したものである。
該当する記述は手帳4ページ目、”なぜ櫛を贈り物にしてはいけないのか”。調査者がこのページに書かれている住所をインターネット上で検索したところ、舘崎氏が当該ページに記述されている住所に存在する廃墟で配信を行っていたことを切り抜き動画で発見。櫛について、あるいは現場の廃墟について重要な情報を聞けるものと考察する。なお、氏はその一件以降配信者としての活動を休止している。
(録音開始)
「はい、録音開始しました。えー、〇〇大学3 年の北窓友也です。本日は調査活動の一環としてS県I市にある廃墟について、元配信者の舘崎氏にお話を伺いたいと思います。本日はお越しいただきありがとうございます」
「……」
「……えーっと。とりあえず初めに。インタビュー、録音したいんですけど大丈夫ですか?」
「……ああ」
「ありがとうございます。それでは早速、S県I市のあの場所……櫛ノ山リゾートでしたっけ。あそこで配信を行った経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「……視聴者からリクエストがあったから行った。それ以上は特に理由もねぇし、強いて言うなら家から近かった」
「なるほど。リクエストはどんな感じで届いたんですか?」
「メアド公開してたから、そこに来た。相手は捨てメアド使ってんのか、何回返信しても音沙汰なかったけど」
「リクエストの内容はどんな感じですか?」
「……文面は残ってるよ」
「あ、ありがとうございます。えーっと、
”舘崎さん、こんばんは!いつも配信楽しみに見ております。前回のY県の配信、最高でした!やっぱりホテルとか病院とか公共機関は趣がありますよね。次回行くところが決まってなければ、似たような感じで良いところを知っているので、ぜひ行ってみてほしいです!I市にある櫛ノ山リゾート、ってところです。ここは結構ハードな曰くがある割に現地民しか知らない場所なのでかなりの穴場ですよ!”……」
「……俺は登録者はあんまり多くなくて、こういうリクエストが来んのもレアだったから。そん時は浮足立って」
「それで向かったと……この人から来たメールはこれだけですか?」
「……いや、もう一件。櫛ノ山のいわくについて詳しく書かれたメールが届いた。ネットで調べても殺人事件があった、なんて話は出てこなかったけど、そいつのメールはすごく詳細だったな。少し上にスクロールすればでてくるよ」
「あ、本当だ。”開業後一ヶ月以内に累計3件の殺人事件が立て続けに発生。いずれも被害者は女性、腹を引き裂かれ臓腑を取りぬかれるという手法で殺害されていたことから、警察は連続殺人として捜査を開始した。被害者はいずれの場合も交際相手ないし配偶者と同じ部屋に宿泊していたため当初はその相手が犯人と疑われたが、有力な証言もなく証拠不十分。唯一の証言者である2件目の被害者の夫も証言内容が支離滅裂で有益とみなせなかったことなどから調査は進まず、犯人は最後までわからなかった。現場はいずれも本館で、2階で殺されたのは……”ちょっと長いな。だいぶ細かく書いてますね」
「背景としては十分だな、いいネタになるな、って思ったんだよ。それで……」
「わかりました、ありがとうございます。
では次の質問ですが、配信中何か気になることとかありませんでしたか?動画で伝わらない情報、たとえば胸騒ぎがしたとか、何かの気配を感じたとか」
「そんなもんしょっちゅうだよ。廃墟ってのはただでさえプレッシャーのある場所なんだ。あの場所に特別な何かを感じたってのはない」
「……なるほど。では配信の後はどうですか?配信は貴方が……その、人影と遭遇したところで止まりました。それ以降あなたは配信もやめて、SNS上の動きもなくなった。巷では一時期死亡説もささやかれて心配されていたみたいですが」
「……すぐみんな気にしなくなったけどな。その後もなにもねぇよ。無我夢中で逃げて、市街地まで降りた時もうあのバケモンは追ってきてなかった。それだけだ」
「なるほど、ありがとうございます。それでは次の質問に……」
「なぁあんた、いい加減にしてくれないか?」
「はい?」
「あんたあの場所について調べてるんだろ。ならさっさと教えてくれよ。あいつはなんなんだよいったい。人でもないし作り物でもなかった。あれは幽霊なのか?あいつにとりつかれてるから俺はこうなってるのか?あんた、答え知ってるんだろ!?教えてくれよ!!」
「舘崎さん、おちついて……」
「落ち着いてなんかいられるかよ!!あんな得体の知れないバケモン見ちまって、毎晩毎晩ワケわかんねぇモンが夢に出てきて!!俺が何したってんだよ!!なぁあんた、教えてくれよ……あいつはなんなんだ!?」
「……それは、わかりません。自分もあの場所には行ったことがないし、きちんと調査しないと……」
「……なんだよ、それ」
「そんなのって、ねぇよ……俺はあれの正体がわかるとおもって、わかったら怖くなくなるっておもって、おれ、おれは……」
(くぐもった泣き声)
「……舘崎さん」
「今から櫛ノ山に行きませんか?」
「……ぇ?」
「舘崎さんの苦しみは断片的ながら理解できました。あなたは櫛ノ山で遭遇した何かの正体を知りたい。”得体の知れない何か”を見たという事実そのものが、あなたの人生を蝕んでいる」
「それなら、その呪いを解く方法は一つ。やつがどういう存在か知ればいいんです」
「……簡単に、言うけどなぁ。あんたにもやつがなんなのかわかんないんだろ」
「えぇ。わかりません。けど、貴方のお陰で仮説はできました。これから私はその仮説を証明しに行く」
「これは情報提供のお礼です。やつの正体、知りたくありませんか?」
「……」
「返事は今でなくとも大丈夫です。どの道3日後には調査に向かうつもりだし。
気が向いたら、私のアドレスまでメールをください。それでは」
(録音終了)
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