調査記録②

調査記録

記録:〇〇大学三年 北窓友也

日時:2 0 2 4 / 9 / 5

場所:S 県I市、櫛ノ山リゾート跡地

目的:"なぜ櫛を贈り物にしてはいけないのか" を探る


 本調査は、手帳4ページ目の記述である”なぜ櫛を贈り物にしてはいけないのか”について、詳細を探ることを目的としている。(手帳については8月に提出した調査記録①を確認されたい)手帳の記述が示す住所には櫛ノ山リゾートと呼ばれる宿泊施設の跡地があり、今回の調査は当該廃墟で行う。なお、当該施設における調査活動は自治体より事前に許可を得た上でとり行っている。


 櫛ノ山リゾートは1987年7月にリゾート開発の一環として開業し、同年8月に閉業。以来取り壊しもされず廃墟となっていることが事前調査の結果明らかになった。閉業の直接的な原因としては客室を舞台に連続殺人が発生し、計三人の死者が出たためである。地方紙のバックナンバーによると三人の間で直接的な関係はなく、共通点といえば女性であることと、恋人や夫と共に宿泊しに来ていたこと。そして三人とも腹を縦に裂かれ全ての臓腑を外に引きずり出され殺害されていたことの三点である。目撃証言や関連性の乏しさから事件は迷宮入りし、ホテルは一月足らずで閉業に追い込まれ、以来人の手が加わらないまま現在に至る。


 今回の調査は調査者である北窓友也の他に叔父の北窓祐介氏、そして一度廃墟内部に立ち入り、謎の人影(後述の外見的特徴から櫛女と命名)と遭遇した経験のある館崎村落氏の3名で行う。本調査の目的は冒頭で述べた通りであるが、より具体的には実際の立ち入り調査により後述の仮説を立証することを目標としている。


(中略)


仮説

 今回の調査においては先行調査事例として、舘崎村落氏による配信が存在する。よって当該施設に何があるのか、何が起きるのかに関してある程度予測が可能であり、仮説を組むことができた。

 舘崎氏の配信(参考動画”【廃墟探索】崩壊寸前!I市外れのリゾートホテルを放浪する”を参照。元配信は現在非公開のため切り抜き動画でのみ確認可能)によれば、施設の売店では近隣地域の工芸品である櫛が多く売られており、今でも売れ残った品が取り残されている。舘崎氏はこれを見て冗談めかして”櫛を視聴者プレゼントにする”旨を発言。直後櫛女の襲撃を受けることになる。

 手帳の記述と合わせて、この襲撃の原因は舘崎氏の一連の発言が”櫛を視聴者に贈った”と解釈されたことによるものだと推測される。前回の調査においてことで結果としてように、ことで結果としてのではないか、と調査者は仮説を立てた。ひるがえって過去に起きた殺人事件の事例も被害者にはいずれも近しい仲の配偶者がいたため、”被害者の恋人が被害者に櫛を送った”ことで櫛女が出現、殺害されたのではないかとも解釈できる。以上の仮説を証明することを副目的として設定し調査に臨んだ。

以下はその記録である。



9/5

午後10時21分

 現場に到着。

 事前に準備しておいた映像記録装置を携え、

 施設内の探索を開始した。


午後10時50分

 施設の探索が完了。

 廊下に割れた窓ガラスが散っていたものの

 異常な現象や物品は発見できず。

 櫛女の出現元を探るため施設内の主要な廊下に

 遠隔で映像確認できるカメラを設置。

 動作確認等も並行して完了した。


午後11時21分

 本格的な調査を開始。

 調査の第一段階として、現地売店の櫛の調査を行う。

 櫛は配信の際映っていた時よりかなり減っており、

 4本程度しか残っていなかった。

 櫛の材質は樹脂製であり模様は均一、

 工場で大量製造されたものとみられる。

 櫛そのものに異変は見受けられなかった。

 櫛を手に取ってみる、

 配信当時の舘崎氏の言動・行動を模倣してみるなどするも、

 一切の異常は発生しなかった。


8/6

午後0時1分

 調査の第二段階、櫛の贈呈を行う。

 調査者が祐介氏に事前に用意した市販の櫛を手渡した。

 直後、ガラスを割ったような音が遠くで発生。

 櫛女が出現したものと推測し、一時施設を離脱。

 車内に残した受信装置から施設内の様子を

 カメラ越しに確認するも、施設内に異常は見受けられなかった。


午前0時9分

 カメラの録画を確認。

 調査者が櫛を手渡した時間帯で突如、

 本館3階廊下で異音が発生。

 足音のように聞こえるそれは廊下を横断するように移動していき、

 非常階段へと消えていった。


午前0時20分

 録画を確認後、我々は3階廊下が櫛女の出現元であると推測。

 祐介氏を車内に残しカメラの監視を行ってもらいつつ、

 現地の様子を確認に向かう。

 安全に配慮しながら再入場し現場を調査するも、

 取り立てて異常な点は見受けられなかった。 


午前0時40分

 調査の最終段階、櫛女との接触を試みる。

 安全のためリゾート出口のすぐ外、敷地外にて櫛の贈呈を行う。

 櫛のやり取りは調査者が舘崎氏に贈る形で行った。 

 直後、祐介氏から3階廊下で異音を検知したとの報告。

 櫛女が出現したものと推定し、彼女との遭遇に備える。

 

午前0時43分

 非常階段の扉から櫛女が出現。

 配信時同様にその姿は異様であり、

 大きく横に開かれた口と縦に割かれた腹が印象的であった。

 さらに彼女の腹部、開かれた臓腑に

 無数の櫛が食い込むようにして埋め込まれていることも確認。

 彼女の姿を目視で確認した舘崎氏が一時恐慌状態に陥る。


 調査者は櫛女との言語的交流を試みるも、

 彼女からはいかなる返答もなかった。

 櫛女はそのままこちらを見据え驚異的な速度で向かってきており、

 我々も退避を試みるも恐怖に苛まれ転倒。

 距離数mの所まで接近されるが、

 電話越しに祐介氏より激励を受けた舘崎氏が機転を利かせ

 手許にあった櫛を破壊。

 苦悶の声を上げながら櫛女はその場から消失した。


午前1時12分

 以降の調査を祐介氏と舘崎氏に引継ぎ、調査者は一時休息をとる。

 彼らは櫛の贈答を追加で三回行い櫛女は三回とも現れたそうだが、

 用いた櫛を破壊すると例外なく姿を消すことを確認できたそうだ。

 また、櫛女の追走範囲が敷地内+敷地外20mの範囲であることも確認。

 

 調査チームの疲弊やカメラのバッテリーの都合上、以上をもって現地調査を終了。撤収作業を行った。



調査結果

 櫛ノ山リゾートの広範な調査、および現地での櫛の贈呈実験を行ったところ、櫛女は”施設内で櫛が贈答された際に出現、櫛を受け取った人間を追跡する”生態があると確認。仮説は概ね正しかったものと断定できる結果となった。しかし櫛女の正体や、そもそも一連の現象がどのような意味を持つのかなどに関しては、革新的な気づきは得られなかった。更に全ての録画データにおいて櫛女の姿をとらえることはできなかったため、彼女の存在の立証もまた難しいものとなってしまった。しかし今回の調査を通じてわかったことも多く、今後の調査にも役立つものと思われる。


・櫛女について

 依然として正体不明である。現地自治体や図書館などで目ぼしい情報の洗い出しを行ったが手がかりはなかった。しかし舘崎氏の配信や過去の事件、我々の調査などから、櫛女には以下の性質があることがわかった。


①敷地内を中心に半径100m程度以内の範囲で櫛の贈与が行われた場合出現する


②櫛女は3階廊下に出現したのち”櫛を贈られた側”を驚異的な速度で追跡する

 →過去の殺人事件などから櫛を贈られた側=女性だけが殺されていることから。舘崎氏も過去の配信時、あれほど驚異的な速度を誇る櫛女から逃げ切れているため、”櫛を贈った”舘崎氏は殺害の対象外であったと思われる。


③櫛女は録画できず、櫛の贈呈に関わった人物のみ確認できる

 →今回の調査において櫛女の姿を録画できなかったにもかかわらず、舘崎氏の配信にはしっかり姿が確認できることから。配信時は視聴者が”櫛をプレゼントされた”対象として規定されていたため配信越しでも視認できたのではないか。


④贈呈に使われた櫛を破壊すれば、櫛女を消失させることができる。

以上4点が明らかとなった。



考察

 現代において、櫛を贈り物にすることの意味は多種多様である。”苦””死”を予期させるため避けるべきである、逆に”苦しいこと、死を共にする”ことを連想させるため配偶者への贈り物に良い、”悩み事を解きほぐす”意味もあるそうだ。こうした意味合いはあくまで縁起物としての語呂合わせ程度であるというのが一般的な価値観であるが、今回我々はその裏には大いなる意味が隠されていることを知った。

 櫛を贈呈すると現れ、対象に苦しみと死を与える女。櫛女の伝承は日本各地を調査しても前例がない。(前回のヘビの件もそうであるが)こうした現象は広く知られている風習・風俗と関連しているように思えるが、それでいて真相は秘密のベールに包まれている。本調査及び事後調査でも、櫛女の正体について核心的な所まで迫ることはできなかった。

 しかし、実際に赴いて調査を行ったからこそ実感することがある。櫛女やヘビは、なのだ。やつらはそれぞれのルールを破った存在を決まった形で抹消するいわばプログラムのような存在であり、そのルールは極めて容易に破られ得る。口笛なんていつでも吹けるものだし、櫛なんてこれまでいくら贈り物にされてきたかわからない。だからこそ、やつらは秘匿されているのではないか。一般的な風俗、風習のベールに包まれて。

 絶対的なルールが存在し、それを侵したものを容赦なく排除しにかかる。これらの存在を私は便宜上””と呼び、今後も調査を続けていく所存である。


北窓


参考動画

2025/8/30投稿

2025/9/1参照

【廃墟探索】崩壊寸前!I市外れのリゾートホテルを放浪する(切り抜き動画)

https://www.??????.com/watch?xxx.xxxxxxx

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