1-1
その日は、二人と別れて真っ直ぐ家に帰った。
けれど夜になり、母に「牛乳が切れてるから買ってきて」と頼まれて、再び外に出ることになった。
夜風は思ったよりも冷たくて、昼間の喧騒が嘘のように街は静まり返っている。
スーパーの袋を片手に提げ、帰り道を歩いていると——。
「……音?」
遠くの空気を震わせるような、重い衝撃音が耳に届いた。
工事現場でもない、爆竹でもない。もっと、生々しい音。
私は好奇心と不安に背中を押されて、音のした方へと足を向けた。
曲がり角を抜けた瞬間、目に飛び込んできた光景に息を呑む。
白い光が奔り、黒い塊が弾き飛ばされる。
その中心に立っているのは、見慣れた白髪の少女——ハクだった。
けれど彼女は制服姿ではない。
どこから取り出したのか、腕に淡く光る装置のようなものを纏い、鋭い視線を向けている。
対峙するのは、黒く染まった、どこか壊れた影。
瞳は虚ろに濁り、言葉すら発せない。
その背後に、禍々しい紋様のようなものが浮かび、空気が軋む。
「……ハク……? 何して……」
声にならない声が漏れる。
ハクの表情は、私が知っている柔らかい笑顔ではなかった。
獣のように鋭く、必死に戦う誰かの顔だった。
「——!」
次の瞬間、影が咆哮し、アスファルトが裂ける。
破片が宙に舞い、私は思わず腕で顔を庇った。
視界の隙間から見たのは、
“人間同士ではありえない戦い”の光景だった。
影のように見えた存在は、よく目を凝らすと“人間”だった。
いや、正確には——人間の「形」をしているだけだった。
マントのような布が破れかけて肌に貼り付き、やせ細った腕には黒い紋様が走っている。
虚ろな瞳は焦点を結ばず、口から漏れるのは意味を成さない音ばかり。
「△……◆……ッ、※※——!」
耳に届くのは、言葉とも悲鳴ともつかない、記号の羅列。
理解しようとしても、脳が拒絶する。
背筋が冷たくなる。
これが本当に“人間”なのかと、思いたくなかった。
「ハク! 危ない!」
思わず声を張り上げると、彼女はこちらを一瞬だけ振り返った。
その瞳に宿っていたのは、私が知らないほど鋭い光。
「真矢——来るな!」
叫んだ瞬間、彼女の背後から黒い腕のようなものが振り下ろされる。
空気が裂け、アスファルトが砕け散る。
衝撃で私はよろけ、買い物袋を落としてしまった。
転がる牛乳パックを追う余裕もなく、ただ目の前で繰り広げられる異常を見つめる。
「△▲◆◆……ァアアアッ!!」
人間の姿をした“それ”が咆哮し、ハクが両手を広げて光を放つ。
ぶつかり合う閃光と衝撃。
夜の街は、まるで別世界のように音と光で満ちていった。
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