1
朝の光が教室を柔らかく包む。
窓の外では、通学路を行き交う制服姿の生徒たち。
私は机に肘をつき、ハクのノートをちらりと覗く。
「昨日の落書き、また増えてる……?」
小さな違和感を感じるけれど、すぐに納得する。ハクが描いたのだろう。
隣の席のハクは、白髪をさらりと揺らしながら、柔らかな笑みを浮かべている。
小学校からの付き合いで、もう何年になるだろう——今は高校生になった二人だ。
思い返せば、小学校の頃。ハクは人見知りで、いつも一人で校庭の片隅に座って遊んでいた。
ある日のこと、私は教室から飛び出し、校庭の端で一人静かに砂遊びをしているハクを見つけた。
「ねえ、何してるの?」
最初は少し驚いたように目を見開いたハクも、やがて顔をほころばせた。
私は隣に座り、一緒に砂で小さな城を作った。
その日から、休み時間には二人で鬼ごっこをしたり、秘密基地ごっこをしたり。
ハクが一人でいるとき、必ず私は声をかけるようになった。
「見つけた? うふふ」
今のハクも、昔と変わらない笑顔を見せる。
あの頃の小さな勇気と笑顔が、今の親友としての距離を作ったのだと思う。
教室のざわめき、友達の笑い声、机の上に置いたペンの感触——
すべては、普通の朝の光景。
ふと、窓の外の校庭の端に、何かが動いたような気がした。
人影……いや、人影とは少し違う。
黒く、禍々しく歪んだ輪郭が、一瞬だけこちらを見た気がした。
気のせいだろうか。目をこすって見直すけれど、もう何もいない。
胸の奥のざわつきが、わずかに残るだけだった。
「……さて、今日も頑張ろうか」
小さな声で自分に言い聞かせる。
日常は、まだ続いている——はずだった。
―
――
―――
放課後、校庭でいつものように二人で帰り道を歩く。
小学校の頃から、こうして並んで歩くのが当たり前だった。
「真矢ー! またハクと仲良くしてるの?」
黒髪ボブの藤原彩が小走りで追いついてくる。
「彩、うるさいなぁ……」
思わず笑いながら肩を軽く叩くと、ハクもくすっと笑う。白髪が午後の光に透け、柔らかく輝く。
「今日は放課後、どうする?」
「うーん、宿題が山積みだから帰るかな」
ハクは小さくため息をつく。その落ち着いた佇まいは、どこか昔のままだった。
「ふふ、相変わらず真面目だね」
彩が肩をすくめ、にこにこと笑う。
歩きながら、通り沿いの小さな公園に目をやる。
砂場に小さな穴がいくつも空いていて、誰かが遊んだ跡が残っている。
「昔みたいに、ここで鬼ごっこしたら楽しいかもね」
私はつい口に出してしまう。
ハクも微笑みながら頷く。
「真矢が一緒なら、また楽しいかもしれないね」
彩は突然立ち止まり、手をひらひらさせて指さす。
「見て見て! この花、まだ咲いてるよ!」
小さな黄色の花が歩道の隙間に咲いていた。
「季節外れなのに、健気だね」
ハクが小さな声でつぶやく。白髪の髪の間に光が差し込み、何だか少し幻想的に見えた。友達ながらに綺麗だなと改めて思う。
三人で笑いながら話をしていると、ふと遠くのビルの谷間、街路樹の陰に黒い影がちらりと見えた。
人影ではない、どこか禍々しく歪んだ形——
でも次の瞬間には消え、普通の景色だけが戻ってくる。
「……気のせいかな」
私は自分に言い聞かせ、笑顔で歩き続ける。
しかし、胸の奥のざわつきはまだ消えていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます