一緒に過ごす時間は人生の調味料
(二人はカフェのテーブルを挟んで向かい合っている)
「ねえ、私が見つけたもうひとつの人生の目標。何だと思う?」
(悪戯っぽく笑う)
「それはね、君」
(『君』をじっと見つめる)
「君を支える人生も悪くないかなーって」
「小さな頃に出会って、家族同然に生きてきた君。異性の中で誰よりも気楽につきあえる君」
「実はね、どうして君と血の繋がった本当の家族じゃないんだろうって、切なく思っていた時期もあったの。君の足が遠のいていた頃とか……。でもね、最近では、むしろ血が繋がっていなくて良かったなーって、思うようになって……」
「どうしたの? 変な顔して?」
(『君』の表情に気づいて、くすっと笑う)
「えへへ。さあ、どういう意味かなー?」
(問いに、とぼけた笑いで返す)
「えへへ。まあ、私のことが気に入らないなら気に入らないでもいいんだよ? 私の方は少し寂しいけど」
「お姉ちゃんか妹とくっついてくれれば、結果としてはあまり変わらないしー」
「それ以外の選択はダメ、認めませーん」
(冗談めかして言うが、他の選択を拒否する意思がこもっている)
「三択です! 人生の三択でーす! 私か、お姉ちゃんか、妹か」
「他の選択はダメでーす! 昔、あのパン屋さんで出会った時に決まったことなんでーす! 私たち4人でずーっとずーっと幸せに暮らすんでーす!」
「まあ、私を選んでくれたら、後悔はさせないよー」
「というか、もう君の胃袋をしっかり掴んじゃったし」
(弱みを見透かすように言う)
「ふっふっふっ。今までツッコミ入れなかったけど、君、私のお料理の話をすると涎が出るよね?」
(笑って、からかう)
「君のお口は正直だなあー、君のお口は私のお料理の味を知っているね? なーんてね」
「あのね、まあ、確かに小さい頃からの関係っていうのもあるけど、私、君の才能は認めてるんだよ?」
(笑いをおさめて、優しく見つめる)
「視野もすごく広いし。君のお話とか、書いたものとか、すごく好きなんだから」
「一緒に過ごす時間は人生の調味料……、文才のない私なりに表現してみた」
「君と今まで過ごしてきた時間はすごく楽しかったし、君がこれからどんな進路を選んでどんな人生を作り上げるのかも、すごく楽しみにしてるんだから」
「世の中では、いろいろ大変なことが起きているし、人生の身近なところでもいろいろな困難に出遭うと思う」
「でも、私は君がいてくれれば明るく元気でいられるし、君にとっての私もそういうものでありたい」
「これからもずーっとずーっと一緒に生きていこうよ。4人でさ。絶対、それがいいって!」
(身を乗り出すようにして言う)
「まあ、君、大学に入ったばかりだし、今すぐ答えを出してほしいって言う方が無理かもね」
「まず、君は大学でしっかりお勉強。菜結さんは君を支えます!」
(力強く宣言する)
「そして、君も自分の人生の道を見つける日が来ると思う」
「私か、お姉ちゃんか、妹か、選んでくれる日も来ると思う。その日を私は待ってるから!」
(若い女性客たちのおしゃべりの声が戻って大きくなって、また、小さくなっていく)
「お姉ちゃんたち、そろそろ着くかな……」
(スマートフォンを取り出す)
「あ、丁度メッセージ来たところだ。着いたって。駐車場から歩いてこっちに向かっているみたいだね」
(スマートフォンのメッセージに目を通す)
「あれ? 続きのメッセージが……」
『菜結ちゃん、なかなか会えなかった末っ子くんとふたりきりで楽しんだかな? お料理してくれる菜結ちゃんには特別サービス☆』
『今までいっぱい頑張ってきた菜結
(スマートフォンに届いたメッセージを読む)
「って、何これ? お姉ちゃんたち……、気を遣って、ふたりきりの時間を作ってくれた?」
(メッセージを読んで驚く)
「あはは……。さ、さて、4人揃うことだし、物産展に行こうか」
(照れ笑いをして、『君』を見る)
「お店出よう。あ、お会計は私に任せて」
(アイスコーヒーの残りを飲み干す)
(若い女性客たちのおしゃべりの声が戻って大きくなっていく)
(カフェのドアを開ける。ベルが鳴る)
(ドアが閉まる。若い女性客たちのおしゃべりの声が消えて雑踏のざわめきに変わる)
「さあ、日本中の食材や食品が私たちを待ってる! 物産展、行ってみよーう!」
(完)
一緒に過ごす時間は人生の調味料 秋の隙間風 @akinosukimakaze
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