第3話姫と肖像画
今日は私と夢の18歳の誕生日。私の大好きなPERO先生の物語では、18歳はよく重要なターニングポイントとして描かれる。私、南宫夕にとって、今日もそんな日だ。
朝の光がアトリエに差し込み、空気を淡い金色に染めている。林も運がいいね、こんな気持ちのいい日に絵が描けるなんて。ええ、知ってるよ、林と夢の約束を。傍観者である私も今日を逃すわけにはいかない。朝早くからアトリエに来ている。今日、私はこの過程を見届ける。だから、ちょっとだけ頑張ろう〜
化粧箱と、普段はあまり使わない巻き髪用のアイロンを手に取る。
ドアがぶつかる音が響くと、二人の姫の誕生日の幕が切って落とされた。
……
「お兄さん、準備はいい?」夢はアトリエの椅子に座り、ニコニコと林を見ている。
さすが夢だ。妹としての偏愛を抜きにしても、この笑顔には99点をつけられる。なぜ一点足りないか?それは教えない。
「おお!もちろん、って言うか、夢は今日は随分と優しいな。こんなに綺麗に着飾って、髪もセットして、とても素敵だ。流石南宫家の小さなお姫様だ」林は観察しながら、うなずいて言った。
確かに。夢は今日、特に気合が入っている。レモンイエローのスカートは、裾に細い白い縁取りが施され、歩くたびに軽やかに揺れて、陽の光が折りたたまれて小さな花のようだ。黒のニーソックスが脚をまっすぐに細く見せ、足元の白いキャンバスシューズがまた隣家の女の子のようなはつらつさを添えている。上は薄いベージュのニットで、裾はスカートのウエストにしまわれ、細い腰のラインを自然に強調している。肩までのショートヘアはちょうど鎖骨に触れる長さで、毛先は軽くカールし、光の中で淡い青黒い光沢を帯びている。リップは透明感のあるピーチ系で、べたつくほどではなく、かといって完全なマットでもない。うつむくと、こめかみから数筋の髪がこぼれ、さりげなく散りばめられたアクセントのようだ。
お姫様、再登場ですね、と思う。でもまあ、服選びに一晩かけたし、朝も鏡の前で30分は仔細にチェックしたんだから、この美しさも当然の報い。その努力をきちんと褒めた林も称賛に値するね。
「あら、ありがとう兄さん。だって今日は特別な日だもの。まあ、兄さんは私が優しいのが好きでしょ?今日だけは仕方なく兄さんの望みを叶えてあげる〜」夢は狡そうに兄を見ながら言った。
ふん、男ってのはこういう優しい子が好きなんだろうね。まあ、私は冷たい女だし、でも努力すればできなくもないけど。
「最高だ。あ、でも誤解しないでくれよ、普段兄ちゃんに意地悪する夢も大好きだぜ!」
このキモいイケメン野郎、何言ってんだよ。口を手で覆いながら親指立てるなんて、どこのアニメのノリだよ。っていうか、やっぱりMなんだろうな。
「もう〜しょうがないなぁ〜。はいはい、始めましょうか。どんなポーズを取ろうかな」夢は笑いながら尋ねた。
「普通に座ってればいいよ。少しだけ横向きになって、ポイントは笑顔だ、笑ってくれ、夢」
「私の笑顔、好きすぎじゃない?」
そうよ、このキモいイケメン野郎、夢の笑顔が大大大好きなんだよ。ずっと笑ってるの疲れるわ。
でも、夢は協力的に口元を緩め、目も細く三日月のように弯げた。よし、この表情は何千回も見た、熟れきっている。彼女の今の笑顔は、過去の「標準夢度」の九割に達している。残り一割はあのキモいイケメン野郎のフィルターが補ってくれるだろう。
「おお!今日の感じは昔と一緒だな、夢!すごい!可愛い!」林は興奮して言った。
ほら、満足そうだ。
サッ、サッ。炭筆が紙の上を歩く。輪郭から始まり、鼻筋、顎、まつ毛、体つき。線が一本一本配置され、骨組みを組み立てていく。そして筆が平筆に変わり、下塗りがされる。チタンホワイト、ナポリイエロー、ごく少量のローズレッドが溶かれ、薄く肌理が呼吸のように貼り付けられていく。
アトリエは静かだ。窓の外で風が木々の梢を渡り、カーテンの端がひそかに手を振る。室内には筆の毛が紙をこする「サラサラ」という音と、彼の息遣いだけが響く。
「兄さん、今日は色が薄めだね」夢が言った。
「今日の君の服装にこの色合いがよく合う」林が答えた。
「兄さん、今日中に描き終われる?」夢が言った。
「もちろんさ、今日中に終わらせなければ意味がないだろう」林が答えた。
彼女が話題を提供し、彼がそれに応える。そのやり取りは、慣れ親しんだ舞踏を踊る王子和姫のようだ。私はそんな光景を見ているようだった。
昼休みに軽く食事をとり、少し休んだ後、すぐに再開した。
「顔のディテールを決めていこうか」彼はイーゼルを少し高く調整し、横向きになって彼女を見た。「大丈夫か?ずっと座ってて疲れただろう」
「平気よ」夢は言った。
ずっと笑ってる方が疲れると思うけどね。
「えっと……今日……楽しいか?」林が尋ねた。
「楽しい〜」夢は言った。
はあ、女の子が一日中モデルとして座ってて楽しいわけないでしょ。でも、林と向かい合って一日中話せるなら、それは楽しいことなんだろうな。夢は口をゆるめて軽く笑い声をあげ、温かい笑顔を見せた。
色塊が頬骨からこめかみへと押し出され、わずかな冷たい灰色が鼻筋を抑え、唇の縁が細い筆で軽く描かれる。
彼は彼女をとても注意深く見つめている。彼の小さな宇宙には、たった一人の人間しかいないかのように。宇宙では誰も話さず、ただ彼女の呼吸、彼の注視、そして私の心の中のツッコミだけがある。
「兄さん」彼女が突然声をあげた。
「ん?」
「小さい頃、夏に三人で川に魚を捕りに行ったこと、覚えてる?」
「覚えてるよ」林は笑った。「お前は全然捕れなくて、そこでへらへら笑ってたし、夕もあの冷たい顔で、魚を捕った俺が自慢する余地もなかったよ」
そう言って、林は右を振り返って一瞥した。すぐに画面に戻る。
「そんなことないもん」夢は口をとがらせ、すぐにまた笑顔に戻った。
私もあの日を覚えている。あんな顔をしていたけど、内心はすごく落ち込んでいた。あの日はこっそりすねて帰りたくなかったから、足が疲れたふりをして歩かないって言った。林はすぐに私をおぶって、歩きながら私を楽しませようとした。夢には及ばないけど、当時の私にとって林の背中はとても心地よく、太陽の匂いがした。少し汗の匂いも混じっていたけど、嫌いじゃなかった。私はずっと顔を彼の背中に埋めていた。そんな小さなことまでよく覚えているものだ。やっぱり私は林のことが好きなんだ。
瞳の描写に入った。ここはいつも重要だ。林は茶黒を段階的に押し込み、虹彩の下縁にほんの少し青灰色を使い、瞳孔の中央にハイライトを残した。
「目を俺の左側、少しだけ見てくれ」彼が注意する。彼女はその通りにした。
しばらくして、絵はほぼ完成した。窓の外を見ると、空は夕焼けに染まっていた。こんなに時間がかかるとは思わなかった。
夢と林は立ち上がって体を伸ばし、夢は絵の前に歩み寄った。私もキャンバスを見つめ、服飾、身体、眉目、弯げた口元を見渡す。これが林の目に映った、18歳の夢か。私の目の奥でカチッと音がし、この絵をしっかりと眼底に焼き付けたいと思った。これは南宫夢という名の少女への贈り物。明明今日は私の誕生日でもあるのに。私も林に、南宫夕への贈り物をねだってもいいのかな。
「兄さん」夢の声が小さくなる。「ありがとう。素敵な誕生日プレゼントだよ」
林は彼女を見て、笑顔がゆっくりと緩んだ。誰かにそっと握られた光のように。
「こっちが謝謝だよ」彼は言った。「夢がずっとそばにいてくれて、俺を立ち直らせてくれなければ、多分、今のように笑って生きていくことはできなかっただろう。ありがとう、夢。これからも、この役立たずの兄のそばにいてくれよな、夢」
その言葉を聞いた瞬間、私の心は突然締め付けられ、そして轟然と炸裂した。夢、夢、夢、いつも夢。聞きたくない、聞きたくない。分かっているのに、傍観者でいればいいだけなのに、今日諦めようと決めたのに、なのに、なんでまだこんなに悔しいんだろう。明明林は何も知らないのに。明明あの失意の夜、孤独な朝に、あの災厄の悪夢からあなたを引きずり出したのは、明明——
私は口を結び、突然笑えなくなった。
「夢、お前、どうし——」
「ねえ、兄さん、私のこと好きでしょ?家族としてじゃなくて、女の子としての好き」夢が突然口を開いた。
やめて、やめてよ。
林は固まった。二人の会話は、突然、細い縄の上に立たされたかのようで、風が吹けば落ちてしまいそうだ。
彼女は彼を見つめ、視線が合う。林は視線をそらし、尋ねた。
「前から気づいてたのか」
「かなり明白でしたよ、兄さん」
「すまない、妹を好きになるなんて——」
「キモいですよね」
「キモい……でも——」
「でも、そういうキモい兄さんのこと、嫌いじゃないんですよ。嫌いな人に私の肖像画を描かせたりしません。ママが亡くなってから、パパも別人のようになって、仕事ばかり。だから、そばにいてくれる兄さんにすごく頼ってました。私も、兄さんのことが大好きです」
やめて、夢はそんなこと言わない。
「だから、これからもずっとそばにいるよ。ねえ、兄さん。いや、林」苦い核が甘い果肉で包み尽くされ、城壁を簡単に打ち破る甘い砲弾が投げられる。しかし、夢の表情は愛を告げた少女のそれではなく、好き、悔しさ、悲しみ、苦さの感情が入り混じり、夢の笑顔を歪めていた。
「夢、君は一体——」言葉に出そうになったが、再び遮られる。
「ねえ、兄さん、もう一つだけ誕生日プレゼントが欲しいんだけど、いい?」
ああ、もうここまで来たんだから、最後だけわがまま言っても大丈夫だよね。
夢は林に近づき、靴が木の床を軽く叩く音が静かなアトリエに響く。林は近づく夢を見て、一歩後退したが、何かに躓いて椅子に座り込んでしまった。夢は林のまたがり、林を見つめる。そしてキスが落とされた。
温かい。柔らかい。
唇と唇が重なり、息が交錯する。彼女のまつ毛がわずかに震え、紙面を飛び越える影のようだ。数秒後、唇と唇がほんの少し離れ、夢は林の呆然とした表情を見て、思わず微笑んだ。そして再びキスをした。
再び視線が合うと、林は疑問をすべて投げ捨てたようで、まっすぐに夢を見つめ、三度目は自ら進んでキスをした。深く、長いキス。彼女はキスされていくうちに少しずつ力を失い、指先が無意識に彼のシャツをつかむ。
ようやく離れたとき、夢は自分の唇を触り、そして口元を拭き、呟いた。「ん〜、唾だらけ」
林はまだ余韻に浸っているようで、表情が少しぼんやりしている。
私の頭は混乱している。まださっき起きたことに浸っている。これは違う、これは正しくない、と自分に言い聞かせ続ける。でも、ようやく手に入れた。私、南宫夕にとって、最高の成人式の贈り物を。でもそのせいで、私はあのことを完全に忘れてしまっていた。
我に返った林が顔を上げて夢を見る。だが、信じがたいものを見たかのように、突然夢の口元をまっすぐに見つめた。
「夢、君の口元の、あのホクロ——」
愛情たっぷりの唾液が元々薄かったコンシーラーをそっと溶かし、ほんの少し暈せて、小さな、目立たないホクロを露わにした。それが今、舞台崩壊の導火線となった。
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