7 遅い夕暮れの和解
三人が瑠夏の家にたどり着くと正行はおそるおそるインターホンのボタンを押した。
「はーい……あら、瑠夏のお友達かしら?」
玄関のドアはすぐに開き、中年の女性がドアの隙間から顔を出した。正行は母親の葵とその姿を頭の中で比べた。葵よりもだいぶ年上で背が高く見える。学校の先生にもこんな人がいたような気がした。隣近所の住人だというのに、こうやってしっかりと対面するのはこれが初めてだった。今までは道ですれ違うときに挨拶する程度だった。
三人は招かれ、玄関に入った。
「あの……ぼく、るかちゃんに……」正行は言葉が続かなかった。
「まあ、どうしたの?」
隣のおばさんは優しく言葉を促し、じっと待つ。
「えーと……」正行は顔を真っ赤にして俯く。
沈黙を破ったのは、黒縁めがねだった。
「えっと、ぼくたちむりやり算数の宿題とかやらせようとしちゃって、そしたらないちゃって……本当にごめんなさい」
「ごめんなさい」正行も一緒になって謝る。
「あらまあ、けんかしちゃったのね。そうだったの。ちょっと待っててね。瑠夏を呼んで来ますね」
おばさんが振り返ろうとした時、彼女の背後にはもう瑠夏が立っていた。まだ夕方だというのにパジャマ姿だ。正行達を見て、ほっとしたように笑う。
「さっきはごめんね」
「うん。まさゆきくん、こんどまた学校につれてってね」
「あっちの学校はまた今度にしましょうねー。また田んぼに入ったりしたらお服がよごれちゃうでしょ」
おばさんが咄嗟に割って入り、瑠夏をたしなめる。穏やかだが有無を言わさぬ鋭さが、その声の調子にあったことを正行は本能的に感じとった。
「あれ? おにいちゃんたちもきてるの」
「なかしちゃってごめんね」リスが謝る。
「宿題はもう自分でちゃんとやるから、ごめんね」
「そうね。誰かにやってもらったら勉強にならないものねー」
おばさんの言葉にまたも正行は動揺する。まだ僕たちは赦されていないのではないだろうか。
「うん。おにいちゃんたちもまた学校につれてってね」
「それはまた今度にしましょうね」
またもおばさんが言葉を挟む。しかも、さっきより少し早口で。
「今日は瑠夏のためにわざわざ来てくださって本当にありがとう。これからも仲良くしてあげてくださいね」
おばさんは玄関のドアを再び開け、三人に小さくお辞儀をした。正行達はゆっくりと玄関を出た。
再びドアが閉じられると同時に、硬質な施錠音が響いた。外はもう暗く、西の空はかすかな赤味を残すのみだった。
「じゃ、いこっか」
リスが二人を促すと同時に、目の前はさらに暗くなった。
瑠夏の家の玄関照明が消えたためだった。正行は恐る恐る、瑠夏の家の玄関を振り返った。
上級生達と別れて家に帰ると、正行は部屋に駆け上がり、ランドセルから教科書と本読みカードと筆箱を取り出して、台所で夕食の支度をしていた葵に駆け寄った。
「本読みするからきいて」
「あら、今日は早いのね」
二人は食卓に向かい合って座った。正行は早口で国語の教科書を読んでいく。
「かえるくんぼくは、てがみをもらったことが、まだいちどもないんだよ……」
正行は息継ぎに疲れてハアハア言いながら、葵の感想を聞く。
「もっとゆっくり読んだら? でも、どっちがかえるくんでどっちがねずみさんかわかったから昨日よりはよくできました」
そう言って、葵はスマホで、学校サイトの本読みチェック欄にコメントを入力した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます