第二話【完結】老人パラダイスの恋 中編—恋の再会
退院した七栄は、
若返った自分の姿に驚きを隠せなかった。
まるで二十代の娘のように映る鏡の中の顔。
そして、彼女が淡い思い描いたのは——
一年前、老人パラダイス勤務で出会い、
仄かに憧れた男性、山岸左近との再会だった。
南国リゾートのような施設で
偶然の出会いを果たした二人。
まるで初恋のようなときめきに胸を躍らせる七栄。
だが、彼の笑顔の奥に、言い知れぬ影が潜んでいることを、まだ知らなかった。
———
—退院後—
「これが私?」
自分の髪なのに、艶のあるブラウン
新しい前歯は自前、
奥歯はインプラントだと聞かされた。
シワはなく、まるで28歳くらい?
いや、25だっていけるわね
そう、バストもウエストも、ハリがあり、
キュッと引き締まってる。
「どこかにブティックはないかしら」
「若返りされた皆様から、そう言ったご要望があるので、施設内に二十代人気ブランドも、各社入っています」
「二十代の子のブランドなんか、選べるかしら」
「ご心配なく。コーディネーターさんがいます」
お世話していた、山岸 左近さん
あの方にお会いしたいわ。
同じ年か、もしかしたら、私より若いかも。
施設につくと、まるでリゾートホテル。
実際、この施設は有名リゾートホテルのチェーン店を国が買収したらしい。
本当に南国の島に、新婚旅行に来ているみたい。
さりげなく見回し彼を探した。
なんだか、いきなり男漁りしているみたいで、
恥ずかしいわ。
ハンモックで、美しい海でも見ながら、
トロピカルなカクテルでも飲もうかな。
ああ、なんて素敵なんでしょう。
目の前に、新婚みたいにイチャイチャしている男女がいる。
あの人達も、若く見えるけど、
きっと「平成」生まれね。
なんかメイクが昔風で懐かしい。
やだわ、そんなふうに年代がバレるなんて。
せっかく若くなったから、今の「
爪もかわいくしたい。
あら、あの人……ちょっと素敵な介護士。
「ねぇ、そのメイクって素敵ね」
「ありがとうございます」
「あなた、2050年代生まれ?」
「はい、未来18年です」
「あなたみたいなメイクにしたいわ」
「私でよければ」
メイクを施され、鏡をのぞき込む。
思わず、息を呑んだ。
自分で言うのもなんだけど
——超かわいい!まるで二十歳みたい。
あの後ろ姿……まさか、左近さん?
だめ、恥ずかしくて顔なんか見られない。
でも、やっぱり——素敵。
シャツの着こなしも素敵だし、
テーブルマナーやお酒のセンスも最高
——隣のテーブルに彼が!
心臓がドキドキしてきた。
ああ、真面目に働いてきて本当によかった。
「君、新しい娘?僕は山岸です。左近でいいよ」
「あの、私、七栄、工藤ななえです。今日来たばっかりです」
ちょっと話し方、ババ臭かったかしら。
おばあちゃん言葉っぽい? 気をつけよう。
「ナナでいいかな。よろしく。わからないことは
なんでもきいて。僕の父がここの株主だったから、大抵のことは知ってるからね」
「あっ、ありがとうございます」
話しかけられた。ラッキー!彼はやっぱり素敵。
「もしよかったら、今日、乗馬クラブに行くんだけど、君も行かないかな」
「ええ、もちろんです。だけど、馬になんか乗ったことないの」
「じゃあ、僕が教えるよ。14:00に、ロビーで待ち合わせでいい?」
「はい、わかりました。あの、よろしくお願いします」
どうしよう。何着て行こう。
気にしてなかったから、
下着もベージュのババシャツしか....。
ネットで買えるかしら。
「はい、お部屋に13:00までにお届けいたします」
「ちょっと派手かな」
だけど、見せるわけじゃないし、勝負下着みたいに気合いをを入れていると思われたくない。
でも、気分の問題だわ。これにしよう。
黒のレースなんて、何十年ぶりかしら。
馬に乗るなんて。あんな素敵な人と夢のよう。
まるで、本当に王子様
「なんか夢みたい。左近さんて、王子様みたい」
「僕が?まさか “白馬のおじいさま” だよ」
「いやだ、冗談ばっかり」
「君みたいな素敵な子、何十年ぶりかな。昔は、
銀座の帝王と言われたこともあったけどね」
「銀座?いまは、中国人電気街よね?」
「父がね、よく遊んでいたから」
「ああ!なるほど。さすが御曹司」
「ここでは、経済力は関係ないよ。誰もが平等なんだ。夜、バーに行こう。素敵な店がある」
デートに誘われるなんて、45年ぶりだわ。
夢の続きのように、まだ夜の気配が残る明け方。
目を覚ますと、彼の姿はもうなかった。
ベッドサイドには、彼の癖のある字で書かれた一枚のカードが置かれていた。
「昨日は最高に素敵だった。朝食は10時に、海を見ながら一緒に」
海のみえるテラスで、ブランチ
こんな風にずっと彼と過ごせるなんて。
その瞬間から、二人の間に流れる時間は加速していった。まるで潮の満ち引きのように、抗えない力で。
◇
彼と二人との関係はずっと続く気がしていた。
ちょっと気になるのは、彼がたまにいなくなる事
あれだけの素敵な人だから、他に彼女がいたって
当たり前。私だけのものになんかになるわけない。
「誰なのかしら……あの髪の長い、あの人?
もしかして、ハーフみたいな彼女?」
店の入り口で、
左近はウェイトレスと笑顔で立ち話していた。
私はここにいるのに。
なんで、あの子の方ばかり見てるの……。
近づいてきた左近が、私の顔を涼しい瞳で覗き込む。
「どうしたの?そんな顔、君に似合わないよ」
「ねぇ、私のこと……愛してる?」
「君、もしかして、やきもち焼いてるの?」
なんて素敵な笑顔。
「ううん、なんでもないの」
「ちょっと、これからでかけるから、
夜19:00レストランに予約を入れた。また会おう」
「まだ、夜まで8時間もあるわ。どなたかとお約束?」
「まさか。心配性だな。悪いけど用事があるんだ」
おかしいわ。
彼は、私になにか絶対に隠している。
まさか浮気....
笑顔の裏に潜む秘密を、七栄はまだ知らなかった。
—後編に続く
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