バレてしまうのでしょうか?

翌日…


王アルデンの城の中、朝の空気は穏やかだった。大きなガラス窓から差し込む陽光が、城の回廊を黄金に輝かせていた。


カイルは一人でゆったりと歩いていた。両手をローブのポケットに突っ込み、時折周囲を見回す。忙しく働く侍女たち、警備に立つ兵士たち、談笑する貴族たちを観察していた。


彼の服の下には、誰も知らない存在が潜んでいた。昨夜倒した悪魔――ネロ。その小さな姿は衣の下に隠れ、時折もぞもぞと動いている。


「おい、あんまり動くなよ。見つかっちゃうだろ。」カイルは小声で囁き、薄く笑った。


服の下から苛立った声が返る。

「なぜ俺がこんな扱いを受けなきゃならんのだ…!俺は悪魔であって、飼い犬じゃないぞ!」


カイルはくすくす笑った。

「へへ…でも今は俺の部下だからな。主の言うことに従えよ。」


ネロは不満げに鼻を鳴らしたが、黙るしかなかった。心の中ではまだ信じられない。恐れられた悪魔が、今は人間の子供の服の下に隠れているなんて。


その頃、城の兵士たちは小声で囁き合っていた。

「ありゃカイル王子か?」

「そうだ…でも一人で歩いてるのか?普通なら侍女が付いてるはずだが。」

「本当に変わってるな。いつも予測できないことをする。」


カイルは知らぬふりをしたが、口元の笑みは広がった。今日も何か面白いことが起こる――そんな予感がしていた。


――王アルデンの城の庭にて。


澄んだ朝の空気が広い庭を包む。小鳥がさえずり、遠くでは兵士たちが大声を上げて訓練していた。


カイルは庭の中央に立ち、両手を頭の後ろで組んで空を見上げていた。


「んー…何しようかな?」小さく欠伸をしながら呟いた。


するとローブの中からネロが飛び出し、不機嫌そうに宙に浮かぶ。

「お前ってやつは!ここまで歩いてきたのに、何の目的もなかったのか!? 訓練ですらないだと!?」


カイルは舌をぺろりと出し、にやりと笑った。

「なーんもないよ。えへっ。」


ネロは思わずずっこけそうになった。

「はぁ!? 俺をわざわざ庭に連れ出して…ただの暇つぶしか!」


カイルは頭をかきながら笑った。

「へへ、だってここ気持ちいいし。空気もきれいで広いし…そのうち何か面白いこと思いつくかもだろ?」


ネロは大きくため息をつき、顔に諦めの色を浮かべた。

「俺は恐れられる悪魔のはずなのに…今じゃ子供の話し相手かよ…」


カイルは優しく笑い、ネロを見下ろした。

「でも、もう怖い悪魔じゃなくて…俺の相棒だ。慣れていけよ。」


ネロの目がわずかに見開かれた。まだ苛立ちは残っていたが、その言葉に心が少し震えた。慌てて目を逸らし、頬の熱を隠した。


その様子を見ていた侍女たちが小声で囁く。

「カイル王子が…一人で喋ってる?」

「妙ね…まさか呪文を唱えてるとか?」

「もしかして…憑かれてるんじゃ…」


カイルはそれを聞いて小さく笑った。

「ふん、放っておけ。何も知らないくせに。」


ネロは額を押さえて嘆息した。

「はぁ…ほんと呆れるわ…」


だが、次の瞬間ネロの表情が引き締まった。小さな瞳が輝き、自信に満ちた笑みを浮かべた。

「よし!なら俺の魔法を見せてやる!お前もよく見て…そのうち真似してみろ!」


カイルの目が輝き、子供のように飛び跳ねそうなほど興奮した。

「本当か!? 魔法!? うわー絶対やってみたい!見せてくれよネロ!」


ネロは一瞬固まり、呆然とカイルを見つめた。

「こ、この子供…なんでこんなにテンション上がるんだ!?」心の中で絶叫した。


だが、期待に満ちた瞳で見上げるカイルに、つい顔が赤くなる。

「ち、仕方ないな…見て驚け!」


ネロは小さな手を掲げ、闇と紫の光が渦を巻き始めた。庭に風が吹き、枯れ葉が舞い上がる。


遠くで訓練していた兵士たちが異変に気づく。

「あれは…何だ!? 王子が何かを呼び出しているのか!?」

「この気配…不気味すぎる…」


カイルはますます目を輝かせ、一歩前に出る。

「うおぉぉ!すっげぇ!もっとだ、ネロ!全部見せてくれ!!」


ネロはさらに力を解き放ち、魔法の光が空を照らし、昼のように明るくなった。


カイルは呆然と見上げ、目を輝かせた。

「わぁぁぁ!すげぇ!よし…俺もやる!」


彼は目を閉じ、深呼吸をした。次の瞬間、体から圧倒的な魔力が溢れ出した。風が渦巻き、地面が震え、足元がひび割れる。


「な、なんだあれは!?」

「とんでもない力だ…あれが子供のものなのか!?」兵士たちは震え上がった。


カイルの目が開かれ、青い光が瞳に宿る。天に向かって手を掲げ――


ドオオオォォォン!!!


轟音と共に光が空を突き抜け、雲を割った。


ネロは呆然と口を開け、声を裏返した。

「ば、バカな!! 初めてで…ここまで!?」


カイルは涼しい顔で微笑んだ。

「へへっ、やっぱ簡単だったな。」


ネロは顔を押さえ、叫んだ。

「これで“簡単”だと!? 本気を出したらどうなるんだ…!」


――数分後。


静まった庭に、重い足音が響いた。


王アルデンが堂々と現れ、隣には王妃エレノーラ。数人の貴族と兵士が付き従い、全員の視線がカイルに注がれた。


「カイル…」威厳ある声が響いた。


ネロは慌ててカイルの服の中に飛び込み、震えながら囁いた。

「や、やばい!見つかりたくない!」


カイルは顔を青ざめさせ、冷や汗をかいた。

「しまった…父さんと母さんが見てた…」


心の中で必死に叫ぶ。

「目立ちたくないのに…やっちまった…!」


王妃は優しく見つめ、しかし言葉を飲み込んだ。貴族たちはざわめき、王アルデンは鋭い眼差しでカイルを見つめていた。


カイルは俯き、強く拳を握った。

「…やりすぎた…」


そして、この章は緊張に包まれたまま幕を閉じた。

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