悪魔ネロ

悪魔は怒りを爆発させた。

「このクソガキィィィィィ!!!」轟音のような叫びが響き渡り、周囲の木々までも震えた。


素早く動き、闇の魔法を唱えてカイルに向かって放つ。


しかし、カイルは一歩も退かない。鋭い眼差しで手を振ると、風の魔力が一気に吹き出し、その攻撃を弾き飛ばした。黒いエネルギーは横へ逸れ、地面に叩きつけられる。轟音と共に小さなクレーターを残した。


「今度は俺の番だ!」カイルが叫ぶ。

掌に赤い炎が灯り、高速で悪魔に向かって撃ち出された。


悪魔は驚いたが、素早く宙へと舞い上がり、カイルの攻撃を避ける。炎は背後の木々を焼き尽くし、倒れ落ちさせた。


カイルは夜空に浮かぶ悪魔を見上げ、薄い笑みを浮かべる。

「なかなかやるじゃないか…」挑発のような口調で呟いた。


一瞬、カイルは沈黙する。目を細め、分析するように見つめた。

「ふむ…お前の魔法も使えるかな?」独り言のように呟く。


宙に浮かぶ悪魔は警戒心を強め、闇のオーラを荒々しく渦巻かせる。

「こいつ…何を企んでいる!?」焦りが芽生えた。


カイルは拳を固く握り、荒い息をつきながらも自信満々に笑う。

「よし!やってみるか!」


目を閉じ、悪魔の呪文を真似して詠唱を始める。黒いオーラが少しずつ身体を包み込み、空気が震え始めた。


空中の悪魔は目を見開き、叫んだ。

「ば、馬鹿な!! なぜガキが闇魔法を…しかもこれは…最上級だと!?」


地上のカイルがゆっくり目を開ける。その瞳は先ほどより冷たく、口元には満足げな笑み。

「へぇ…案外すぐできるもんだな…」軽い調子で呟く。


片手を振ると、濃厚な黒いエネルギーの球体が悪魔に向かって放たれた。

回避する暇もなく、悪魔は両手を前に突き出し、闇の盾を展開する。


轟音と共に夜空が震え、黒いエネルギーが悪魔の盾を激しく圧迫する。

「ぐぬぅぅぅぅ!!! くっ…!」悪魔の身体が震え、口から黒い血が滴った。


「な、なんという力だ!? このガキ…人間じゃない!」


カイルは下から冷たい眼差しで見上げ、満足げに笑う。その瞳には闇と炎の輝きが宿っていた。


深く息を吸い込むと、その身体は一気に跳躍する。風のオーラが全身を包み、一歩ごとに雷鳴のような音を響かせた。


「はあああっ!!」


悪魔は驚愕する。

「こんな速度だと!?」


カイルの闇に包まれた拳が、悪魔の胸へ突き出される。

「喰らえっ!!」


悪魔も咄嗟に闇の力を拳に集中させ、正面から受け止めた。衝突の衝撃で大気が爆ぜ、地面が割れ、風が荒れ狂う。


カイルは顔をしかめながらも瞳を冷たく輝かせる。

「まだだっ!!」


身体をひねり、風と闇の力を全て拳に集める。

「はああああああっ!!!」


隕石のような黒い拳が悪魔を直撃した。轟音と共に悪魔の巨体は吹き飛び、木々をなぎ倒して地面に叩きつけられる。


土煙が立ち、クレーターが生まれた。


カイルは黙ってその様子を見下ろす。闇と炎のオーラが静かに消えていった。ゆっくりと歩み寄り、しゃがみ込む。


「このまま放っておくのも惜しいな…」口元に笑みを浮かべる。「さて…今すぐ殺すか、それとも後にするか…」


夜は静寂を増し、風の音だけが響いた。カイルは座り込み、じっと待った。


数分後、悪魔の身体が動き、苦しげに目を開ける。最初に目に映ったのは、炎を弄ぶカイルの冷たい瞳だった。


「おお…目が覚めたか?」穏やかに言う声は、むしろ恐怖を誘った。


悪魔は青ざめ、必死に後ずさる。

「ゆ、許してくれぇ!!」


カイルは冷たい微笑を浮かべ、立ち上がった。

「安心しろよ…殺しはしないさ。」


悪魔は安堵しかけたが、次の言葉で凍りつく。

「ただし、一つ条件がある。」口角が上がる。「俺の従者になれ!」


悪魔は目を剥き、叫んだ。

「な、何だと!? 人間が俺を従者にだと!?」


「そうだ。」カイルは短く答え、瞳を輝かせる。


「バカな…俺は悪魔だぞ!人間に仕えるなど…!」


「関係ないね。」カイルは肩をすくめると、にやりと笑う。「それより…お前、小さくて可愛い動物に変身できるか?」


悪魔は呆然としながら、小声で答えた。

「…できるが…」


「よし!じゃあ今日からお前は俺のペットだ!」


悪魔は項垂れ、心で嘆いた。

「…こいつには何を言っても無駄だ…」


黒い光に包まれると、巨体は縮み、可愛らしい黒い毛並みの小動物へと姿を変えた。赤い瞳が宝石のように輝く。


「うわぁぁぁ!可愛いっ!!」カイルは歓声を上げ、しゃがみ込んで覗き込む。


悪魔は溜息をつき、ぼやいた。

「くっ…闇の支配者が、こんな姿に…」


カイルは頭を撫でながら満足げに笑う。

「よし!新しい名前をつけてやる!」


悪魔は絶望的な顔で見上げた。

「名前まで奪う気か…」


カイルは顎に手を当てて考え込み、にっこり笑った。

「うん…かっこよくて可愛い名前…そうだ、『ネロ』だ!」


悪魔は目を見開いた。

「ネ、ネロ…?」


「そう!今日からお前はネロだ。俺のペットで従者!」カイルは誇らしげに指差した。


小さな悪魔――ネロはうなだれ、顔をしかめた。

「はぁ…このガキめ…」


その夜、戦いを終えた二人は城へ戻った。月が光を落とし、帰路を照らしていた。


肩に乗せられた小さなネロは、ぶつぶつ文句を漏らす。

「…信じられん…俺がガキの従者だなんて…」


カイルは笑いながら頭を撫でた。

「ははっ、運命だと思えよ。しかも可愛い姿になれて、得だろ?」


「可愛いだと!? 俺は大陸全土に恐れられる悪魔だぞ!」ネロの瞳が一瞬赤く光る。


カイルは楽しそうに笑った。

「そうそう、今は恐れられる“可愛い悪魔”さ。それが強みだろ、ネロ。」


ネロは腕を組み、ムスッと顔をそむける。

「まったく…鬱陶しいガキだ…」

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