第二王子と第一王子
その日の午後、宮殿の中庭は黄金色の陽光に包まれていた。
燃えるような魂を持つ四歳の少年カイルは、いつもそばに付き添ってくれる侍女であり世話役のイリスから与えられた木剣をしっかりと握り立っていた。
「よし!やってみる!」
カイルは目を輝かせて叫んだ。
彼は木剣を強く握りしめ、目を閉じて深く息を吸った。頭の中で、イリスの言葉をはっきりと思い出す。
「よし…できるはずだ。マナを…この剣に流し込むんだ…」
ゆっくりと、温かいオーラが彼の小さな体を包み始めた。周囲の空気がやわらかく震える。黄金と白の光が輝き出し…不思議なことに、黒い影も彼の周囲に渦巻いた。
「えっ…!?」
イリスの目が大きく見開かれる。
その混ざり合うオーラ…光と闇、そんなことはほとんど不可能だ。大人の魔導士でも制御できないのに、まして四歳の子供が。
カイルの手に握られた木剣が震え、やがてまばゆく光り輝いた。それはもはやただの木ではなく、彼自身の力から生まれた聖剣のようだった。
カイルが目を開ける。喜びに満ちた顔が輝く。
「できた!イリス、見て!できたよ!」
イリスは呆然と立ち尽くした。心臓が早鐘のように打ち、口がわずかに開いたが声は出ない。数秒後、彼女は震える声でささやいた。
「王子様…これは…これはありえません。どうしてあなたが…?」
しかしカイルはただ無邪気に笑い、自分がどれほど衝撃的な力を見せたのか全く気付いていなかった。剣を誇らしげに掲げ、イリスに向かって興奮気味に言った。
「さあ!次はどうすればいい、イリス!?」
イリスは深呼吸し、構えを取った。その表情は真剣そのものだが、微笑みがうっすらと浮かんでいた。
「さあ…私に攻撃してごらんなさい」
カイルの顔が再び輝く。
「よし…じゃあ、先に攻撃するね!」
小さな叫び声とともに、彼は素早くイリスへ駆け出した。全力で剣を振り下ろす。しかしイリスは軽く身をかわし、すぐさま柔らかな一撃で反撃した。
カイルは驚いたが、反射的に剣を持ち上げて防御した。
「へへっ!イリスの攻撃を防げた!」と誇らしげに言う。
さらにスピードを上げ、反撃を試みた。その動きは子供にしては速かったが、イリスの方がなお俊敏だった。軽やかな一歩でかわし、カイルはバランスを崩した。
ピシッ!
イリスの指がカイルの額を軽く弾いた。
「いったー!!」
カイルは尻もちをつき、赤くなった額をさすりながらむくれ顔をする。
「なんで弾いたの!?痛いじゃん!」と怒って抗議した。
イリスは笑いをこらえ、やさしく微笑んだ。
「それは不注意への罰です。本当の戦いなら、あなたはとっくに惨敗していましたよ」
カイルはまだ口をとがらせていたが、瞳には強い決意が宿っていた。
「明日こそは絶対に勝つ!二度と負けないから!」
イリスは小さくため息をつきながらも、少年の気迫に胸を打たれた。彼女はやさしくカイルの頭をなでた。
「十歳になるまで待ちなさい…その時にはきっと私を倒せるようになるわ」
カイルの目が希望に輝いた。
「ほんとに!?本当だよね!?」
「本当です」
イリスは静かに答えた。
カイルは顔を近づけ、無邪気だが希望に満ちた表情で聞いた。
「嘘じゃないよね?」
イリスは一瞬目を閉じ、心からの笑みを浮かべた。
「ええ、嘘ではありません」
カイルの顔に大きな笑顔が広がった。決意はますます強くなる。
夕空はゆっくりと橙色に染まり、涼しい風がやさしく吹く。鳥たちは巣へ帰り、最後の陽光がカイルの木剣に反射していた。
イリスは少年を静かに見つめ、心の中でささやいた。
「この小さな王子様は…いつか本当に偉大な存在になるでしょう」
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宮殿の食堂の夜
その夜、宮殿の食堂は高い天井から吊るされたクリスタルのランプの温かな光に包まれていた。豪華な料理の香りが漂う。
大きな長テーブルには、王アルデン、王妃エレノーラ、第一王子カンジー、第二王子エリオン・ニジマ、そして末っ子のカイルが座っていた。侍従たちは部屋の両脇に整然と立ち、いつでも仕える準備ができている。
王アルデンは末の息子を優しい目で見つめた。
「我が子よ、望むものはあるか?」とやさしく尋ねた。
食事に夢中だったカイルは一瞬手を止めた。彼は顔を上げ、目を輝かせて答えた。
「お父様!ぼく、世界中を旅したい!それに…あらゆる魔法を極めたいんだ!」
部屋は一瞬にして静まり返った。王アルデンは驚きに目を見開く。王妃エレノーラは口元を覆い、誇らしさと不安が入り混じった表情を浮かべた。
突然、大きな笑い声が響いた。
「ハハハハハ!夢見るなよ、カイル!」
エリオンがテーブルを叩きながら言った。
「お前なんてまだ鼻たれ小僧だろ!どうやって全ての魔法を極めるっていうんだ!?」
彼は嘲るように続けた。
「大人になったとしても…どうせできやしない!ハハハハ!」
カイルはスプーンを強く握りしめ、唇を尖らせながらも、瞳は鋭く光った。彼は立ち上がった。木の椅子が大きな音を立てて引かれ、皆の視線が集まる。
小さくても力強い足取りで、カイルは第二王子の兄のもとへ歩み寄った。緊張した顔だったが、勇気がはっきりと輝いていた。
「兄上、エリオンがぼくを見下すなら…」
カイルは大声で言った。
「本当にぼくに勝てるのか?」
エリオンは眉を上げ、ニヤリと笑った。
「へっ、小僧のお前が俺に勝てると思ってるのか?」
カイルはエリオンの目の前に立ち止まり、鋭い視線を向けて言い放った。
「試してみればいい…でも覚えておけ、勝利はすでにぼくの手の中にある!」
「チッ!このクソガキが!!」
エリオンは拳を振り上げた。
ドンッ!
だが、その拳は途中で止まった。長兄のカンジーがその手を軽く押さえたのだ。
「もうやめろ、エリオン」
彼は冷たく言った。
「末の弟に手を出すな」
再び部屋は静まり返った。侍従たちは頭を下げ、王妃エレノーラは不安そうに見守り、王アルデンは鋭い目で末の息子を試すように観察していた。
カンジーはカイルに向き直った。
「カイル…お前はエリオンには勝てない」
カイルは目を見開き、抗議の色を浮かべた。
「どうして!?勝てるよ!絶対に勝つんだ!」
カンジーはため息をつき、落ち着いたが厳しい声で言った。
「よく聞け。お前の兄はただ者ではない。エリオンはすでに三つの属性を極めている。火、水、そして雷だ」
カイルの目が大きく見開かれる。
「み、三属性…!?」と信じられない様子でつぶやいた。
エリオンは誇らしげにニヤリと笑った。
「だから、二度と俺に挑もうなんて夢見るな、カイル。真の後継者はこの俺だ!」
王妃エレノーラの不安はさらに募り、侍従たちは小声でささやき合った。
だがカイルは拳を固く握りしめ、小さな顔に決意を浮かべた。
「だったら…もっともっと修行する!兄上が三属性を持っていても、ぼくは必ず勝つ!」
カイルの大きな声が食堂に響き渡った。皆の視線が彼に注がれる。
ついに王アルデンが口を開いた。
鋭くも興味深げな目で、末の息子を見つめながら――。
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