へりくつ16 太陽の謎

 ​公園のシーソーが、僕の影をうんと長く地面に伸ばしている。空のてっぺんにいた太陽が、だんだんとオレンジ色に変わりながら、西のビルの向こうに沈んでいこうとしていた。もうすぐ夜が来る合図だ。

 ​僕はブランコに座って、その眩しい光をぼんやりと見つめていた。太陽って、すごいなあ。あの一つがあるだけで、世界はこんなに明るくて、暖かい。でも、もしも、あの太陽が二度と昇ってこなくなったら、この世界はどうなっちゃうんだろう。

 ​考え始めると、少しだけ背中がぞくっとした。僕は急いで家に帰ると、リビングでいつものように寝転がっている父さんの元へ駆け寄った。


 ​「お父さん! 大変だ! もしも太陽がなくなっちゃったら、どうなるの?」


 ​僕が世界の終わりでも見るような顔で尋ねると、父さんは欠伸あくびを一つして、のんびりと答えた。


 ​「なんだ空、そんなことか。太陽なら、毎日なくなってるじゃないか。今もちょうど、なくなるところだろ」

「ううん、そうじゃないんだよ!」


 ​僕は慌てて首を横に振った。


 ​「夜になったらなくなるけど、次の日の朝には、ちゃんと東の空から戻ってくるでしょ? そうじゃなくて、もしも完全にいなくなって、ずーっと戻ってこなくなったらどうなるのって聞いてるの!」


 ​僕の必死の問いに、父さんは少しだけ考えるそぶりを見せた。そして、まるで簡単な算数の問題を解くみたいに、あっさりとこう言った。


 ​「ああ、なるほどな。もしも太陽が完全に戻って来なくなったら、まあ、ずっと夜が続くってことだな。そうなったら大変だぞ。ずっと夜だから、空もずーっと寝てなくちゃいけない。もちろん、学校もずっとお休みだ」


 ​ずっと夜……。ずっと、寝てなくちゃいけない……。

 ​父さんの言葉を聞いて、僕はその光景を想像した。朝も昼もなく、ただ暗い世界で、ずっとお布団の中にいる毎日。公園で友達と遊ぶことも、お気に入りの図鑑を読むこともできなくなる。

 ​それは、すごくすごく退屈そうだ。

 ​でも、待てよ。学校がずっとお休みっていうことは……?

 ​僕は心の中で、ある重大な事実に気がついた。


 ​「ずっと寝てなきゃいけないのはつまらないけど、学校の宿題がぜーんぶ無くなるのは、ちょっとだけ、いいかもしれない……」


 ​世界の終わりと、僕の宿題。僕の心の中で、二つを乗せたシーソーが、少しだけ、宿題のない世界の方へゆっくりと傾いていくのだった。

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