へりくつ17 地下鉄の謎

 ゴオオオオ……。

 僕と父さんを乗せた電車は、暗いトンネルの中を突き進んでいく。窓の外は真っ暗で、たまにオレンジ色のライトが矢のように過ぎ去っていくだけだ。僕たちは今、たくさんのビルや道路がひしめく、東京の街のずっと下、地面の奥深くを進んでいる。


「すごいなあ」


 僕は窓に額をくっつけながら、心の底から感心していた。こんなに深くて長い穴を掘って、たくさんの人が乗る電車を走らせるなんて、人間って本当にすごいことを考える。一体、どうやってこんなトンネルを作ったんだろう。

 電車を降りて、駅のホームを歩いている時、僕は隣を歩く父さんの袖を引っ張った。


「ねえ、お父さん。地下鉄のトンネルって、どうやって掘ったの?」


 僕の質問に、父さんはいつものように、にやりと口の端を上げた。そして、周りをこっそり見回してから、僕にだけ聞こえる声で尋ねてきた。


「空は、『モンゴリアンデスワーム』って知ってるか?」

「うん、知ってる!」


 僕は思わず大きな声で答えた。


「この間、未確認生物みかくにんせいぶつの本で見たよ! 砂漠に住んでる、すっごく大きいミミズみたいなやつでしょ?」


 僕が得意げに言うと、父さんは「ほう」と感心したように僕の頭を撫でた。


「よく知ってるな。さすが空は物知りだ。実はな、この地下鉄のトンネルっていうのは、そのモンゴリアンデスワームが昔、東京の地下を散歩したときに掘った巨大な穴を、人間が後から見つけて、再利用させてもらってるんだよ」


 そうだったのか! だからこんなに大きくて、どこまでも続いているんだ! 僕の疑問は、一瞬で解決した。

 父さんは僕の手を引いて、次の電車に乗り込みながら、さらに話を続けた。


「だからな、今でも地下鉄に乗っていると、窓の外の暗闇を、巨大なモンゴリアンデスワームが反対側からものすごい速さで通り過ぎていくことがあるらしいぞ」


 その言葉を聞いて、僕はもう一度、電車の窓の外に広がる暗闇をじっと見つめた。あの暗い穴の向こうに、本で見た巨大なミミズが、今も暮らしているのかもしれない。


「うわ……それは、すごく怖いな」


 僕はごくりと唾を飲んだ。でも、心の奥では、別の気持ちもむくむくと湧き上がってきていた。


「でも……もし本当に出てきたら、ちょっとだけ、見てみたいかもしれない」


 ドキドキしながら窓の外を見つめる僕の隣で、父さんが満足そうに笑っていることには、まだ気づかなかった。

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