へりくつ12 仕事の謎

 今日の社会の授業は、町で働いている人たちについての勉強だった。先生が「みんなのお父さんやお母さんは、どんなお仕事をしているか知ってるかな?」と尋ねると、みんなが次々と手を挙げた。


「はい! うちのお父さんは、お医者さんです!」

「僕のお父さんは、おいしいパンを作る仕事をしています!」


 警察官、大工さん、会社の社長。みんなのお父さんは、なんだかすごく格好いい。先生が僕の方を見た時、僕は咄嗟とっさに固まってしまった。あれ……そういえば、僕、お父さんの仕事って知らないや。お父さんは、いつも家にいる。平日の昼間だって、ソファでゴロゴロしているか、僕の知らないどこかへふらっと出かけているかだ。


 その日から、僕の頭の中は「お父さんの仕事って、なんだろう?」という疑問でいっぱいになった。


 家に帰ると、案の定、父さんはソファでテレビを見ながらおせんべいをかじっていた。僕はランドセルも下ろさずに、その背中に向かって直球の質問を投げかけた。


「ねえ、お父さん! お父さんの仕事って、一体何なの?」


 父さんはゆっくりとこちらを振り返ると、口の周りについたおせんべいのカスをぺろりと舐めて、こともなげにこう言った。


「ああ、お父さんの仕事か。それはな、この家で一日中、こうやってダラダラしていることなんだ」

「ええーっ! そんな仕事あるの!? ずるいよ!」


 僕が抗議の声を上げると、父さんは「まあまあ、落ち着け」と僕を隣に座らせた。そして、急に声をひそめて、真剣な目で僕を見つめてきた。


「いいか、空。お父さんは、ただダラダラしているわけじゃない。実はな……お父さんは、地球を守るための『最終決戦用人型秘密兵器さいしゅうけっせんようひとがたひみつへいき』なんだ」

「ひ、秘密兵器!?」


 あまりに突拍子もない言葉に、僕は目を白黒させた。父さんは、僕の肩をぐっと掴んで続ける。


「そうだ。いつか、この地球がとんでもない危機に襲われる日が来るかもしれない。その『いざ』という時のために、エネルギーを無駄遣いせず、常に最高の状態で待機しておく必要がある。それが、お父さんに与えられた、世界で一番重要な仕事なんだ。だから、普段はこうしてダラダラして、エネルギーを温存しているのさ」


 その瞬間、僕の中でバラバラだった謎の欠片が、ピッタリとはまったような気がした。学校の給食を家で食べていたのも、僕を上昇気流に乗せられると言っていたのも、全部、お父さんが普通の人じゃない、「秘密兵器」だからだったんだ……!


 僕は何も言えなくなって、ただ父さんの顔をじっと見つめた。僕のお父さんは、家でダラダラしている、ただのお父さんじゃなかった。世界の平和を守るために、その正体を隠して、静かに出番を待っているヒーローだったんだ。お父さんの謎は解けるどころか、宇宙みたいに、もっともっと大きく、そして果てしなく深まっていくのだった。

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