へりくつ11 差別の謎

 夕ご飯が終わって、家族みんなでテレビをぼんやりと眺めていた。お笑い番組が終わると、難しい顔をしたアナウンサーの人が出てきて、なんだか深刻そうな声で話し始めた。画面には「世界で起きている、さまざまな差別について考えます」という文字が映し出される。


「さべつ……?」


 聞いたことのない言葉だった。でも、アナウンサーの人の表情や、スタジオの静かな雰囲気から、それが良くないことだというのはなんとなく伝わってくる。僕は、隣で腕を組んでテレビを見ていた父さんの服の袖を、ちょんちょんと引っ張った。


「ねえ、お父さん。今言ってた『差別』って、どういうこと?」


 僕が尋ねると、父さんはいつものようにふざけるでもなく、珍しく真面目な顔で僕の方を向いた。そして、手にしていたリモコンで、ぷつりとテレビを消した。

 急に静かになったリビングで、父さんは僕の目を見て、ゆっくりと話し始めた。


「差別っていうのはな、空。例えば、背が高いとか低いとか、肌の色が違うとか、そういう、他の人とほんのちょっとだけ違うっていうだけの理由をつけて、その人のことを仲間外れにしたり、いじめたりすることだ」


 父さんの声は、いつもより少しだけ低くて、とても真剣だった。へりくつを言う時の、あのいたずらっぽい光はどこにもない。僕はごくりと唾を飲み込んで、父さんの言葉に耳を傾けた。


「何も悪いことをしていないのに、ただ違うってだけで悪口を言われたりしたら、空はどう思う?」

「……すごく、悲しい」

「そうだよな。だから、差別は絶対にしちゃいけないし、されてる人がいたら助けてあげなきゃいけないんだ」


 僕はこくこくと頷いた。そっか、差別っていうのは、世界で一番やっちゃいけない、人を悲しませることなんだ。


「差別される人は、すごく可哀想なんだね」


 僕がそう言うと、父さんは「ああ、その通りだ」と満足そうに頷き、僕の頭を優しく撫でた。そして、急にいつもの、にやりとした笑顔に戻って、僕の顔を覗き込んできた。


「だからな、空」

「うん」

「お前も、晩ごはんのピーマンとか、お味噌汁に入ってるネギのことを『苦いから嫌いだ』とか『緑色だから嫌だ』とか言って差別しちゃダメなんだぞ。みんな同じお皿の上の、大切な仲間なんだからな」


 その瞬間、僕は「えっ」と固まった。父さんの大きな手の中で、僕の頭の中はピーマンのことでいっぱいになった。あの独特の苦い味と、シャキシャキした歯ごたえ。


「う、うん……」


 返事はしたものの、僕の口の中には、まだ食べてもいないピーマンの味が広がっているような気がした。仲良くしなきゃいけないのはわかっているけど、やっぱり、ピーマンは手強い相手になりそうだ。

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