へりくつ4 鉛筆の謎
カリカリ、カリ……。僕の部屋に、鉛筆がノートの上を走る音だけが響く。算数の宿題は嫌いじゃないけれど、同じような計算を繰り返していると、どうしても飽きてしまう。僕はふと手を止め、短くなった鉛筆を鉛筆削りに入れた。
ハンドルを回すと、木の削りカスと一緒に、新品みたいに尖った芯が顔を出す。僕はその鉛筆をしげしげと眺めた。六角形の木の真ん中に、どうして黒くて細い芯がまっすぐ入っているんだろう。木に穴を開けて差し込んでいるのかな? でも、そんなことをしたら折れてしまいそうだ。
考えれば考えるほど、鉛筆は不思議な物体に見えてくる。僕は宿題を放り出して、リビングで新聞を読んでいる父さんの元へ走った。
「お父さん! 鉛筆ってどうやって作っているの?」
僕が勢いよく尋ねると、父さんは読んでいた新聞をばさりと下ろし、僕の顔を見てにやりと笑った。僕の「どうして?」は、父さんにとって最高の娯楽らしい。
「おう、空か。いいところに気がついたな。みんなが使っている鉛筆はな、もともと木なんだぞ」
「木なのはわかるけど、真ん中の芯はどうしてるの?」
「それはだな、もともと芯が入っている特別な木なんだよ。『鉛筆の木』っていうのがあってな、その木は幹も枝も、真ん中が黒い芯になっているんだ」
父さんの言葉に、僕は目を丸くした。そんな不思議な木が、この世界のどこかにあるなんて!
「でも、僕の鉛筆はオレンジ色だよ? 木の周りに色がついてるよ?」
「ああ、それは簡単さ。その『鉛筆の木』の枝を、ちょうどいい長さに切って、ナイフで六角形に削り出すんだ。そして最後に、周りに色を塗ったら完成、というわけさ」
まるで見てきたかのように語る父さんの説明は、あまりに完璧で、僕の心にすっと染み込んでいく。頭の中では、枝を削って鉛筆を作る職人さんの姿が浮かんでいた。
「すごい! その木、見てみたい! どこにあるの?」
僕が興奮して身を乗り出すと、父さんは顎に手を当てて、うーん、と少しだけ考えるふりをした。
「それがな、その木はとっても貴重で、アマゾンの奥地、誰も足を踏み入れないようなジャングルの深くにしか生えてないんだ。だから、見に行くのはちょっと難しいかなあ」
アマゾンの奥地。その言葉の響きは、僕をがっかりさせるどころか、胸をときめかせた。うるう年を起こすアスリート、石を削って作ったお城。父さんが教えてくれる世界は、いつだって僕の知らない不思議と冒険に満ちている。
「そっか……」
僕は少しだけ残念そうに呟いた後、顔を上げて、力強く宣言した。
「わかった! じゃあ僕、大人になったら探検家になって、アマゾンの奥地まで『鉛筆の木』を探しに行くよ!」
僕の決意を聞いて、父さんは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに「おう、頑張れよ」と笑って僕の頭を力強く撫でてくれた。僕の心の中には、算数の宿題よりもずっと大きくて、ずっとわくわくする、新しい目標が生まれたのだった。
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