第27話 彼の戒めは終わらない。しかし、会議は開始する
スズカが去った後の部屋は、静寂に包まれていた。
それも、単なる静寂とは異なり、重く暗いものであった。もしや、この部屋だけ雨雲が出現しちゃったのかしらん。
シルバはというと、スズカが退出した後、「では」と短く言い残すとすぐさまそれを追うようにして出て行ってしまった。
つまり、このさほど広いとは言えない一室に残されたのは二人のみ。
ギルド幹部2名が立ち去って暫し。時はかなり流れたように思えたが、目の前に映る状景はさも時が止まったのかの如く全くもって変わっていない。
目線の先にあるのは、項垂れたように頭を落としながらその場に立ち尽くすミカの姿があるのみだった。
果たしてどうしたものだろうか。そりゃあ、イケメンコミュ力抜群リア充ならば現状に最適な言葉をかけてこの場を華麗に切り抜けることができるのであろうが、あいにく俺にはかけるべき最適な言葉とやらが全く思いつかない。
やきもきしながらじっとしているとふと視線上から微かに声が発せられた。
「私、昔から助けられてばっかり……いろんな人に助けられて生きてきた。私が弱いばっかりに」
ミカはそういうとゆっくりとしゃがんだ。
「ホント、助けられてばっかり……そして、助けられて相手に迷惑をかけてる」
ぽつぽつと床に涙を落としつつ曲げた両足を両腕でゆっくりと抱きしめる。
ミカは、自身の弱さによって他人に迷惑をかけている、それが許せないのだろう。
助けてもらってばかりで、ひとりでは何もできない自分に憎ささえ感じているのかもしれない。
自分に絶望し、憎み、そして嫌う。
彼女は自分の無力さを痛感し、そんな現状を打開したいと悩み、苦しんでいるのだ。
ああ、なんということだろうかと俺は思った。
俺は再び、過去に犯した過ちを繰り返してしまったのだ。
自分の助けたいという衝動の結果によって、彼女は今苦しんでいる。
だが、俺にはそれを解決してやれるだけの術は持ち合わせていない。
なんて酷い有様だろうか。くそっ、なんてこった……
俺は言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。
そして、俺は意を決しゆっくりと口を開いた。
「……すまなかった」
俺がそう告げると、ミカはうつむいていた顔を上げ、
「どうして、謝るの? 謝ることなんてないよ」
涙を浮かべながら言った。
「ああ、お前は優しいんだな。こんな俺に謝るな、だなんて」
俺は思ったことをそのまま口にした。
「もういいんだ。俺の自己満足な行動が全てを不幸にさせてしまった。本当に、申し訳なく思っている」
俺は頭を下げた。
ホントに、そうだ。正義ごっこなんて、やめたはずなのに。正義がすべて正しいわけじゃないのに。
そのことを過去の大きな過ちで思い知らされたはずだったのに。
俺は、またも同じ過ちを犯してしまったのだ。
だから、俺は頭を下げ続ける。決してそんなちっぽけなことでは俺の過ちを拭い去ることはできないだろう。
しかし、今の俺にできることはこれしかない。
そして、これからの俺にできることは――
――そう、二度と絶対に同じ過ちを犯さないことだ。
俺は再度自身を戒める。何度戒めても戒めきれないかもしれない。
でも、それでも俺は自身の過ちを許さないためにも戒め続ける。
◇◆◇
その翌日のことである。
俺は、ギルド本部のある一室にいた。いや、正確には集合させられたというのが妥当だろう。
その部屋の天井には美しいシャンデリアが吊るされており、室内のあちこちに高級そうな調度品が置かれていた。
そして、その部屋の中央には一際目立つ細長い大きな机が鎮座しており、俺はその一方側の一席に座らされていた。
無論、座っていたのは俺だけではなかった。反対側の席には、如何にも高価そうな装備を施した白髪の男の他、高装備を装備した位の高そうな連中が数人座っていた。
また、俺の横にはスズカとシルバも同席しており、先日のパーティメンバーと白髪男連中が向かい合うようにして配置されていた。
同席しているスズカとシルバは険しい表情を浮かべ、これから待ち受ける出来事を待ち構えているようだった。
だが、両氏が険しい表情を浮かべるのも無理はない。
これは、先日起こった奴隷救出作戦に関するギルド会議なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます